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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(3)

 レティシアの王弟自らが交渉に出向いたのは、こちらなりに誠意をみせるためである。  多少不利な条件を呑んだとて、ひとまずは包囲を解くよう求めなくてはならない。  このような夜更けに、しかも最低限の人数でやってきたのは、停戦交渉の使者を受け入れるとグロムアス側から返事を得たからだ。  相手の気が変わらぬうちにと駆けてきた。 「やはり危険だ。アル、戻ろう」  先ほどと同じディオールの言葉も、今度はより切迫した響きを秘めていた。  アルフォンスの忠犬と陰口を叩かれる部下に、王弟は笑みを返す。 「元はといや、こちら側から仕掛けた小競り合いだ。歴史だけ長い小国が軍事国家に噛みついたんだ。それなりの落とし前は覚悟しているさ」  ──俺の首ひとつですむなら安いものだ。  あながち軽口でもないのだろう。  危険な任務を買ってでたのだ。  アルフォンスが覚悟を決めていることが伝わり、ディオールは大柄な身体を強張らせる。 「そんなことはさせない、アル。私が必ずあんたを守る」  ひとりで重荷を背負うな──その言葉に、アルフォンスの表情が和らいだ。

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