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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(2)

 グロムアスの騎馬部隊──周辺諸国はその名を聞くだけで震えあがるという精鋭部隊が、古王国レティシアの王都を囲んだのは二週間前のことだった。  国境での小競り合いならよくあることだ。  だが騎兵部隊の主力が山を越え、天然の要害とも呼べる山道を王都に向けて進軍していることに、レティシアの首脳陣は驚愕した。  案内人なしでは馬を進めることなどできない難所も数多くある。  信じられない速度で敵軍がレティシア王都に到達したのは、おそらく手引きした者がいたのであろう。  国内に裏切者がいるに違いない。 「アル?」  心配そうな呼びかけに、アルフォンスは馬の歩みを止めた。  そろそろ敵陣だ。  すでに武装を解き、装飾的な胸当てと儀礼用の剣しか身に帯びてはいない。  それでもできる限り敵意を見せてはならないとの気遣いから、下馬して手綱を取る。  このままだと街を囲む門は破られ、王都は蹂躙されるだろう。  何としてもそれは阻止しなくては。

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