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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(6)
傾斜のきつい岩肌に折り重なるように並ぶ数多の天幕。
ずっと見張っていたのだろう。
出迎えの兵士が二人のもとへ駆けてきた。
ヒョロリと背の高い髭面の男である。
敵の王弟を値踏みするような不躾な視線。
敵意がないことを示すため、アルフォンスは彼に剣を預けた。
頭を垂れに来たのだ。
武器を帯びておくわけにもいくまい。
無言の合図を受け、ディオールも主に倣う。
「……文明を持ちあわせぬ成り上がり者と言いたかっただけだ」
兵士に聞かれぬよう小声で、アルフォンスは兄貴分に耳打ちした。
「だが耐えろ。今夜は少々媚びねばならん。どんな手を使ってでも停戦を勝ち取る」
すべては姉上のためだ──靡く金髪の下から濃い翡翠色の双眸が強い光を放つ。
丸腰の王弟に残されたものは高慢と責任、それから重圧。
あとは国への──いや姉王への想いだけであった。
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