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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(7)
《レティシアの黄金》アルフォンス殿下、よくいらっしゃいました──切なげな微笑を浮かべて出迎えた簒奪王カインに少々面食らいつつ、アルフォンスとディオールは招かれるままに天幕の中へと入っていった。
意外なことにそこにいたのはカイン王と、先ほどの髭面の兵士のみ。
急に決まった夜間の会談だからだろうか。
それともこちらの人数に合わせてくれたのか。
アルフォンスはまずはほっと息をついた。
大国の威信を示すように大勢の将校が居並ぶ中、不利な交渉に臨むことを覚悟していたのだ。
王弟というより軍人としての癖で、周囲に視線を走らせる。
当人が質素な印象すら受ける黒ずくめの格好をしているわりに、簒奪王の天幕は豪奢な造りであった。
王の座る椅子は王宮にあってもおかしくないものであったし、足元には高価な絨毯が敷き詰められている。
奥には人ひとりが寝むには余るほどの大きさの寝台。
衝立の向こうに置かれているのはバスタブか。
開閉できる仕様なのだろう。
天幕の屋根は今は開け放たれ、夜の冷気が侵入してくることだけが難点といえようか。
だがそれも、星空を観察するための演出と思えば乙なものである。
「一週間前です。ここに陣を張ったのは」
己をじっと見つめる黒曜石の眼に、アルフォンスは戸惑い俯いた。
一瞬、眉をひそめたカイン王だが、気を取り直したように微笑して手を伸ばす。
握手かと反射的に差し出した手の平をなぞる指。
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