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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(8)
「山が邪魔をして、ここからはレティシアの王都は見えません。でもあなたが近くにいると思えば空気も甘やかなものに感じられましたよ」
「あ、ああ……」
曖昧な笑みを返すアルフォンス。
簒奪王の指は動き、ゆっくりと指先が絡められる。
カインの熱い手の平に心音が高まったのは、緊張のせいだろうか。
顔と手以外を黒衣で覆った男は、ゆっくりと味わうようにアルフォンスの指を擦り続ける。
──こいつの雰囲気に呑まれてはいけない。
アルフォンスはギリと奥歯を噛みしめた。
何せ相手は前王を弑して王位を奪った男なのだ。
アルフォンスの表情が、たちまち硬いものに変じたと気付いたのだろう。
カイン王の唇から笑みが消える。
熱い指先はアルフォンスの手の甲、そして腕を伝って柔らかな髪に触れた。
「ご存知でしたか、アルフォンス殿下」
「な、何をだ……」
精一杯の威厳を装い、しかし声は微かに震えている。
そんな王弟の金髪に唇を寄せて、簒奪王は静かに囁いた。
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