17 / 180
【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(9)
「そんな顔をされると僕の心はかき乱されるんですよ」
熱を帯びた息遣いがアルフォンスの薄紅色の唇を覆う。
「んんっ……」
呻き声と、手足をばたつかせての抵抗は簡単に封じられた。
熱い息と、生きもののような舌がぬるりと口中を蹂躙する。
ようやく離れた唇に、息をつくのも束の間。
再び角度を変えて唇が押し当てられる。
はしたない音が頭の中で大きく響いた。
「緊張していましたか? 口の中がカラカラで舌が張り付きそうだ」
蕾の蜜を味わい尽くしたかのようにカインが微笑した。
鼻先が触れ合うほど近く。欲望に輝く黒曜石の光に呑まれそう。
口中に溢れたカインの唾液が喉に流れる。
反射的な動きだろう。
コクリと音たてて唾を飲んでから、アルフォンスはハァハァと息をついた。
翡翠色の双眸は怒りに燃え、剣のように煌めいている。
「ころ……や……」
──殺してやるという言葉を呑みこんだのは、かろうじて残っていた理性の力であろう。
握り拳で己の唇を乱暴に拭って、アルフォンスは声を振り絞った。
ともだちにシェアしよう!