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【第一章 夜に秘める】月が見た凌辱(9)

「そんな顔をされると僕の心はかき乱されるんですよ」  熱を帯びた息遣いがアルフォンスの薄紅色の唇を覆う。 「んんっ……」  呻き声と、手足をばたつかせての抵抗は簡単に封じられた。  熱い息と、生きもののような舌がぬるりと口中を蹂躙する。  ようやく離れた唇に、息をつくのも束の間。  再び角度を変えて唇が押し当てられる。  はしたない音が頭の中で大きく響いた。 「緊張していましたか? 口の中がカラカラで舌が張り付きそうだ」  蕾の蜜を味わい尽くしたかのようにカインが微笑した。  鼻先が触れ合うほど近く。欲望に輝く黒曜石の光に呑まれそう。  口中に溢れたカインの唾液が喉に流れる。  反射的な動きだろう。  コクリと音たてて唾を飲んでから、アルフォンスはハァハァと息をついた。  翡翠色の双眸は怒りに燃え、剣のように煌めいている。 「ころ……や……」  ──殺してやるという言葉を呑みこんだのは、かろうじて残っていた理性の力であろう。  握り拳で己の唇を乱暴に拭って、アルフォンスは声を振り絞った。

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