27 / 180
【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(4)
「どの口が言うか。この裏切者が!」
「……すまない」
ほかの言葉を忘れたように何度も「すまない」と呟いて、ディオールは元主人の前に頭を垂れた。
薄茶のつむじを見ながら、アルフォンスは己の顔を乱暴に拭う。
今更ながら視界が滲んだのだ。
「何故だ? 俺はお前を実の兄とも思い信頼していたのに……」
どんなに堪えようとしても語尾が震えてしまう。
「私だってそうだ」
ディオールが顔をあげた。
軍人らしい精悍な顔立ちを大きく歪める。
「あんたには命を救われた。それどころか兄とも呼んで慕ってくれたんだ。以来、主君と思って仕えてきた。あんたが優しくしてくれるから、私だってあんたを弟とも友とも思って……」
「ならば何故っ!」
押し殺した声は、血を吐くような悲痛な叫びに聞こえたのだろう。
ディオールが顔を歪める。
「グロムアス国王カインは、私の実の兄なんだ」
ともだちにシェアしよう!