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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(6)
「あいつはどこだ? 戻ってこないうちに俺は戻るぞ」
「あいつ?」
おうむ返しに尋ねるかつての部下は、そういえば少々愚鈍なところがあり手を焼いたものだった。
元主君の苛立ちを感じたか、ディオールは焦った様子だ。
「あ、兄上なら軍の中枢の者たちと作戦会議を……」
「何だと! まさか、王都を攻める気か?」
姉上──と叫び立ち上がったアルフォンスだが腰がカクリと折れ、その場で揺らぐ。
「あっ……」
後孔からトロリと熱が溢れたのだ。
股の間をゆっくりと垂れ落ちる。
腹の奥に吐き出された精液であると気付き、今度は上体が傾いだ。
とっさにディオールの手が伸びる。
剥き出しの腰と肩を支え抱き寄せたのも、決して他意はなかったのだろう。
だが次の瞬間、アルフォンスの手が翻る。
「俺に触るなっ!」
パンと小気味良い音をたて、白い手の平がディオールの頬を打った。
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