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【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(9)

     ※  ※  ※  夜が明けたものの、森の中にいるように周囲は薄暗い。  北方に位置するこの地は、一年のうちの半分は太陽の陽射しから見放されるのだ。  ──ぽつり。  そのうえ、雨まで降ってきた。  霧のような水滴がテーブルを一雫濡らしただけで、簒奪王の天幕は屋根に覆われる。  戦場で尚も快適さを求める主の意向に、囚われ人よろしく椅子に腰かけていたアルフォンスは肩を竦めてみせた。  夜明けと同時に天幕を出ようと考えたのは確かだ。  だがカイン王の思惑がつかめない以上、故国を──そして姉王を守るためにはもう少しここにいて事態を静観する必要がある。 「アルフォンス殿下、その……お身体は?」  少々きまり悪そうな態度で天幕に戻ってきたのは当の簒奪王であった。  傍若無人に堂々としているのかと思いきや、予想外の姿勢に少々戸惑う。 「お身体もクソもあるか。お前のせいでズタズタだ」  もはや敬語などかなぐり捨てていた。  軍事大国の国王陛下に対してお前呼ばわりする囚われ人に、王の側近が色めく。  ひょろ長い体格の髭面の軍人がアルフォンスに詰め寄った。 「わきまえろ、ロイ将軍」  怒鳴ったのはカインである。  まるでアルフォンスの従者のような態度で、ロイの前に立ちふさがる。  当のアルフォンスが椅子に腰かけたままツンと顎をあげて騒動を見やるさまに、王は笑みをこぼした。

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