34 / 180

【第一章 夜に秘める】「剣を忘れるな」(11)

「アルフォンス殿下。今更ですが、あなたを傷つけるつもりはなかったんです。あなたに会えて我を忘れてしまって……ですから、どうか食事を召しあがってください」  アルフォンスの体は、指の先まで動かない。 「お前、先王を殺し王位を簒奪したらしいな」  王と客人のつく食卓の会話ではない。  ロイ将軍がアルフォンスの際まで駆け寄り、カインに睨まれる。  ワインを口に含み、王は微笑した。 「そうですね。王になれば、あなたに並べるかと思って」  白々しいと吐き捨てるアルフォンス。 「欲しいものは何でも奪うという噂も聞く。王位も他国の領土も、それから人もか?」  人はあなただけですよ──そう呟いて、簒奪王は立ち上がった。  黒衣の袖がゆっくりとはためく。  予期せぬ動きであった。  アルフォンスの細い首に、ゆっくりと王の手が回されたのだ。  白い首筋に、黄金色の花の飾りがキラリと揺れる。 「アルフォンス殿下、これはやはりあなたに持っていてほしい」  深い声が耳朶を打つ。  あの熱い手がうなじに触れる。  それが身体を重ねた馴れ馴れしさに思えて、アルフォンスは立ち上がった。

ともだちにシェアしよう!