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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(2)
「いえ、夕べいらっしゃった時と少しばかり印象が……」
目を細めて、黒衣の王はどうやら喜んでいるらしい。
敬語がとれて、打ち解けてくれたとでも思っているのか。
「お前は相変わらず気味の悪い言葉遣いだが、俺はもう知らん。礼儀や気遣いなど糞喰らえだ」
こっちはひどい犠牲を強いられたんだ。
さっさとレティシアから出て行けという思いである。
要はアルフォンスは、無礼な敵王に怒っていたのである。
「それよりも少しは眠れましたか? お食事は?」
自信なさげな口調に「おや」と思う。
欲しいものは力づくで奪う簒奪王が、随分としおらしい態度を取り繕っていやがると。
「ふん、食料テントの肉を喰らい尽くしてやった」
アルフォンスは肩を怒らせた。ツンと顎をあげる。
「その方があなたらしいですよ」
微笑を返すカイン。
「明朝には軍を退きはらい、首都への帰途につきます。それにともなって一つ条件が……」
ホラきたと、アルフォンスのこめかみがピクリと動く。
条件とは何だと聞かねばなるまい。
聞いたら、こちらとしては呑まざるを得ない立場だ。
どうせロクな条件ではあるまいと、アルフォンスは身構える。
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