47 / 180
【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(4)
なぜこうも自信たっぷりに話すのか、この男は。
アルフォンスがギリリと奥歯を噛みしめる。
どんな脅しにも屈するものかと身構えた彼は、しかし王の口から出た言葉に心底呆れてしまったのだ。
「あなたが来てくれないなら、ディオールを殺します」
「は? ディオを?」
好きにしろとアルフォンスは言い捨てる。
ここに来てから、そろそろ丸一日が経とうとしている。
来た時は暗くて気付かなかったが、王の天幕は岩場の一番高いところに位置していた。
陣営内の様子が実によく見渡せる。
多くの兵たちに混ざってディオールは馬の世話をしていた。
甲斐甲斐しい働きっぷりは、まるで最初からグロムアス軍の一員のようだ。
裏切りの形を明確に見せられたようで、アルフォンスの貌から表情が消えた。
「勝手に殺せばいい」
予想外に突き放した返答だったのだろう。
カインの眼が落ち着かなさげに空をさ迷う。
ともだちにシェアしよう!