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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(5)

「実の兄弟のように育ったと聞きますが?」 「そっちこそ。本物の兄弟だと聞いたが?」  幼いころに生き別れたので、とりたてて愛情は感じませんねと王の返事はにべもない。 「むしろ探し当てた弟がずっとレティシアで、しかもあなたと一緒にいたなど、嫉妬の対象でしかありませんよ」 「そうか……」  哀れな男だと、かつての忠臣の姿を目で追うアルフォンス。  彼は今、アルフォンスが乗ってきた白馬にブラシをかけている。  王国でのいつもの光景と何が違うのかと錯覚しそうな自然な手さばきだ。  あの男の首が飛ぶ姿を想像する。  一緒に育ってきた兄貴分だ。  少しの感情は動くだろう。  だが、多分それだけだ。 「何故ならあいつは俺を……いや、俺だけならまだいい。姉上を裏切ったんだ。その罪は万死に値する」  黒曜石が細められる。  その眼に映るのは苛立ちの色か?  やがて、カイン王の口元が笑みの形に歪んだ。 「あなたにお見せしたいものがあったのです」  簒奪王が右手を己の肩の高さに持ちあげる。 「何だ?」  初めそれは糸に見えた。  カインの手に握られた金色の糸の束。  不穏な気配に、アルフォンスの表情が曇る。 「レティシア国王陛下の寝所は意外に質素だったと、暗殺者が申していました」 「あ、姉上に何を……っ!」

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