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【第一章 夜に秘める】屈辱のくちづけ(6)
弾かれたようにアルフォンスが振り返る。
恐怖に引きつった表情でカインを見上げると、その手から金の束をひったくった。
白金の、指一本分ほどの分量の束。
これは髪の毛なのか。
姉は自分と同じ金色の髪をしている。
弟が戦場向けに短くしているのとは対照的に、彼女の髪は背まで届くなめらかなものであった。
風になびく白金はそれはそれは美しく、アルフォンスは後ろから眺めるのが好きだった。
「あ、姉上に指一本でも触れてみろ。俺が許さん」
激高に、カインは指に張りついていた白金を振り落とす。
「国王の部屋が質素というのは僕のハッタリです。その髪はうちの兵士のものですよ」
「……じゃあ、姉上は?」
「ご無事でいらっしゃることでしょう。少なくとも我々は何もしていない」
「そ、そうか……」
《レティシアの黄金の剣》とも呼ばれる男が、その場に膝をついた。
「ふっ……本当だ。よく見れば全然違う。姉上の髪はこんなに枝毛だらけじゃない」
小刻みに震える肩を見下ろすカイン。
黒曜石の奥に炎がちらつく。
「ですが、アルフォンス殿下。僕はいつでも国王の寝所に黒塗りの剣を携えた兵士を送ることができる」
「………………」
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