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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(12)
「よく見れば金メッキが剥がれかけている。お前が俺に寄越したのは、しょせん紛い物だ」
行くぞ、ディオール──再び告げて、アルフォンスは返事も待たず一歩踏み出した。
柱の向こうに早く隠れてしまいたいのだろう。
貴婦人への挨拶はおろか、周囲すら何も見ていない。
足元に跪きペンダントを拾う様子を見せたカインが、ふと顔をあげる。
黒曜石の眼に、一瞬鋭い光が過ぎった。
「アルフォンス!」
黒衣が、アルフォンスめがけ体をぶつける。
咄嗟のことに抵抗できず、アルフォンスは横腹にまともに衝撃を受けた。
勢いあまって数歩よろめくと地面に倒れ込む。
そのときになってようやくディオールは異変に気付いた。
カインの黒衣に張りつくように、もう一人。
黒づくめの人物がいることに。
顔を隠し全身を黒で覆うその姿はまるで暗殺者のようで──そこまで考えて、事態がすでに取り返しのつかないことになっているとようやく気付いたのだ。
カインの腹に何か刺さっている。
黒く塗られた刃──そう、それは紛うことなき暗殺の剣だ。
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