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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(11)
王妃なんて呼ばれ、満更でもなさそうな小娘を顧みる。
ああ、この娘は知らないのだ。
当然だ。
王が敵国の王弟を抱き潰しているなど、誰が可憐な貴婦人の耳に入れるものか。
「お邪魔をしては申し訳ない。行くぞ、ディオール」
ツンと顎をあげ、アルフォンスが白い袖を翻した。
「ま、待ってください。違うんだ、アルフォンス」
黒衣の腕が白の手首をつかむ。
伏せられた翡翠の双眸がチラと王を見やった。
「一生外さないと言っていた白いものが見当たらないな、カイン」
アルフォンスが巻いてやった包帯は、今やカインの腕にはなかった。
傷は癒え、王の心も変わったのだろう。
いや、もともと軍事大国グロムアスの王が弱小国レティシアの王弟になど心を寄せていなかったのか。
鋭い棘に腹を刺されたように、アルフォンスは立ち止まった。
乱れた喉元に右手をつっこむ。
「アルフォ……」
カインが口を開く寸前、彼の足元に黄金が散った。
アルフォンスがペンダントを投げ捨てたのだ。
輝く花の装飾は、黒衣の影で光を失っていた。
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