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【第ニ章 溺れればよかった、その愛に】刺さる棘(10)

「外国からいらっしゃったお客さまは、とてもお綺麗な方だと兄が申しておりましたわ。本当ですのね」  踊るような足取りでアルフォンスの周囲を回る足取りは、いっそ清々しいほど無邪気なものである。 「兄?」 「ええ、軍で将を務めておりますロイという者です。正義感ばかり強くて、中身はちょっと抜けてますのよ。あたしは妹のリリアナと申します」  アルフォンスが何かに思い至ったように頷いた。  あの童顔を思い出し、言われてみれば兄妹よく似ていると小さく呟く。 「妹がいると仰ってましたね。ずいぶんと甘やかして……大切にしているようにお見受けしました」  貴婦人への礼か、アルフォンスは口調を改めた。 「お客などとんでもない。ただの捕虜ですよ。どうかお気遣いなく。未来の王妃さま」 「いやですわ。そんなのただの噂ですもの。王妃だなんて」  王族の嗜みだ。  得意分野ではないにしても、社交は心得たものである。  笑顔を張り付けた元主人の隣りで、ディオールが顔を引きつらせていた。

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