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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(13)

 叫び出しそうになったのだろう。  理性を総動員しての、これは囁き声だ。 「兄さんは? いっしょだろ?」 「……二人一緒に出たら目立つ。僕も時間差で逃げるから、あとで落ち合おう」 「わかった」  あとでなと囁いて、ディオールはゆっくりと檻から這い出る。  どうにも鈍いところがあるから心配していたが、弟は兄の言葉どおり目立たないように静かに遠ざかり、向こうに見える大通りの人ごみの中に消えていった。 「ふぅ……」  小さく息をつくカイン。  もしもディオールが見つかりそうになったら、檻から飛び出して奴隷商人たちの気を引きつけてやろうと思っていたのだ。  ──これでいい。  あとは、檻の中から一人消えていることを悟らせないようにしなくては。  なるべく時間を稼ぐんだ。  ひとりになった檻の中が急に広く感じられ、カインは目の前が霞むのを感じた。  ──いまさら泣くな。弟を助けられたらそれでいい。  乱暴に目元をこすったそのとき。

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