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【第三章 憎しみと剣戟と】花の向こうで眠れ(14)
ガラッ──小さな小さな金属音に気付く。
檻の扉が開く音だ。
まさかディオールが戻って?
呆然と振り返ったカインは、そこに信じられないほど透明な黄金色を見ることになる。
「俺がここから出してあげるよ」
突然、目の前に現れたのは天使も恥じ入って隠れてしまいそうな綺麗な少年であった。
金色の細い髪はキラキラと輝くようだし、翡翠色の大きな双眸はどこまでも澄んでいてカインの姿を映している。
呆然とするカインに対して、金髪の少年は実に無遠慮だ。
馴れ馴れしく腕を握られ、とっさにカインはその手を振り払った。
自分なんかに触ったら、綺麗な手が汚れてしまう。
そう思ったからだが、あるいは少年を傷つけてしまったかと不安を覚える。
そっと見やった少年は、しかしまったく気にした素振りなどない。
鼻先が触れあうほど近くに顔を近付けると、カインの眼をしげしげと眺めたのだ。
「黒曜石みたいなキレイな眼だね。夜よりもずっと黒い」
「えっ……?」
心音が高鳴る。
いや、綺麗なのはあなたのほうだ。
翡翠色の双眸に吸い込まれそうなこの感覚。
「黒はね、なにものにも染まらないコウキな色なんだって。姉うえがゆってた」
甘い香りのする吐息が鼻先をくすぐる。
誘われるようにカインは少年の唇をついばんだ。
「あっ……」
くちづけの意味など知らないのだろう。
少年の大きな双眸がパチリと瞬く。
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