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第18話

 ふわ、と強く甘い匂いが鼻をかすめた。  柊の匂いだ…と頭がぼんやりと処理する頃には、瞼を閉じた柊がすぐそこにいて、顎を甘噛みされる。ただ、歯が当たった程度だが、甘いそれに、また声が漏れそうになってしまい、なけなしの理性で持てる力をこめて肩を押した。かしゃん、と小さく何かが落ちた音がした。 「しゅ、柊っ、だ、だめ…っ!」  そう言えた自分に、胸を撫でおろした。つまった息を浅く吐くと、柊は肩にあった僕の手を掴んで、唇を寄せた。小指の先端に、柔らかく色づいた柊の唇が吸い付いて、長い赤毛の睫毛に縁どられ、透き通るような翡翠色の瞳が僕を射抜いた。瞳が合わさった瞬間に、びり、と腰の奥が疼いてしまい、何もできなくなってしまう。無意識に、すり…、と内腿を擦り合わせたのを柊は目敏く気づいていて、頬を緩めた。 「大丈夫です…抜き合いなんて、友達同士ならやってるもんですから…」  友達付き合いのない僕は、そんなこと知らなかった。抜き合い、というのが、何を意味しているのかはわからなかったが、柊のことの後の行動でなんとなく察していく。 「ぁ…」  ベルトの隙間に指が差し込まれ、シャツをするすると引っ張り出す。 「先輩」  頬に淡く吸い付かれて、視線を戻すと、嬉しそうにまなじりを下げて、柊は何度も顔中にキスをする。それに、身悶えている間に、じ、と音がして、器用に片手でくつろげられたスラックスとずらされた下着から、ふるり、と僕の控え目な性器が飛び出てくる。 「あ…しゅ、う…」  彼にいじられてから、怖くて自分で触ることのなかったそこは、あの時のように角度を持って勃ちあがっていた。それを大切な後輩に見られているのかと思うと、恥ずかしくて涙がこぼれた。その涙を、熱い舌が舐めとる。犬のような仕草なのに、僕を見つめる瞳は獰猛で、一つも見逃さないというように瞬きすらしていないようだった。 「やだ…みな、いで…」  柊のシャツを握りしめると、艶やかに後輩は微笑んだ。 「かわい…」 「あっ」  つつ、と長い指が僕のそれをなぞる。びくん、と身体が大きく跳ねるが、与えられるのは、うっすらとした刺激で、竿を指先がくすぐるようにたどったり、淡く生えた下生えをさりさりと混ぜたりする。 「んんう…っ、しゅ、う…っ」  自然と内腿を合わせて、腰の熱をどう発散すればいいのかわからずに、擦り合わせるしかなかった。 「触ってほしい?」  何が苦しくて涙が出ているのかわからない。思考もぼんやりとしてきて、なんでこんな状況になってしまったのかもわからなくなってきた。 「も、やら…っ、わ、かんない…っ、柊…しゅ、うっ…」  広い柊の肩に寄りかかって、必死に呼吸をする。どうすればいいかわからない恐怖で、目の前にいる後輩の名前を何度も呼ぶ。シャツ越しにもわかる立派な骨格の鎖骨に、涙を浸み込ませるよう、顔を擦りつける。一瞬息を止めた柊が、身体の奥から深く熱い吐息をつく。それが、さらされた首筋にかかり、ぞわ、と全身が痺れる。 「すぐにイッちゃだめだからね」 「あんっ」  かさついた何かに、弱いそこが包まれて、背中が、びん、と仰け反る。僕の先端からは、透明な液体がこぼれていて、そのぬめりを使って、柊の手のひらが、ちゅこちゅこと水音をたてながら、ゆっくりと上下に擦り上げていく。 「あっ、あっ…んぅ…っ」  その度に、いつの間にか下着ごとスラックスを脱がされて靴下だけになった白い脚が、びく、びく、と揺れ、声が出てしまう。恥ずかしくて、両手で口元を覆うと、柊の片手で簡単に外されてしまう。 「たくさん聞かせて?」 「やだっ、あっ、あ、や、らぁ…っぁう」  ぐち、と先端のくぼみを強い親指が押しつぶすように撫でる。びりびりと強い刺激に脳みそが揺れる。ほろ、と涙が落ちると視界が幾分かクリアになって、鈍く光る翡翠の両目が僕をすぐ近くで見つめていた。 「あ…」  あまりの近さにひるんでしまう。唇が、すぐそこにあって、どきり、と身体が固まる。 「…聖、先輩…」  なぜか、柊の方が切羽詰まったような顔つきだった。苦し気に眉を寄せて、汗もかいている。なんだか可哀そうで、その汗を指先で掬いとると、少しだけ目を見開いた後に、口角をあげた。 「僕のも、触ってください…」 「ぅあ…」  かちゃかちゃとバックルを外す音がして、見下ろすと、びき、と音がしそうなほど、立派な性器が取り出される。こん棒のように太く、長いそれは、同じ人間のものとは思えないほど、僕のとは違う。それに驚いている僕に、くす、と小さく笑うと、僕の手を誘って、ゆっくりとそれに添わせた。  あまりに熱くて、思わず手を引っ込めようとしてしまうが、柊の手のひらに包まれてしまい、逃げ道を失う。どうしていいかわからなくて、小さく震えていると、それを目を細めて、嬉しそうに柊は僕を観察していた。 「こうやって…」 「っ…」  指先に浮き出た血管を感じて、どき、と身体がまだ熱を上げる。柊が僕の手を捕まえた状態で、上下に動かす。 「やってみて」 「んぁ…っ」  そう甘く囁くと、忘れかけていた僕の滾りを軽く扱いた。急に訪れた快感に驚いてまた身体が前のめりに柊にもたれかかってしまう。ちゅこちゅこ、といやらしい水音が恥ずかしくて、早く終わりにしたいと思い、震える手を上下に動かす。 「ん…」 「っ…」  僕の耳元で、柊が淡く喘ぐ。それが、鼓膜を通って、柊に握られているそれに熱がこもって、腰がまた重くなった。ゆっくりと上下にさすると柊は息をつめたり、吐いたりする。僕がやられたように、より生々しく肉感のある先端を、そろりと撫でると、ぷつりと液体が溢れてくる。何度かそれを繰り返していると、手がぬめぬめと湿り、手を動かす度に音が立つ。 「ん…ぁ、せん、ぱい…上手…ん…」 「しゅ、う…あっ、んぅ…あ…」  柊が耳元で喘ぎ、褒めるように僕の先端を撫でてくる。ぞわわ、と鳥肌が立ち、ぴくんぴくん、と内腿が揺れる。 「あ、ぅ…や、や…それ、え…しゅう…あっ」  不意に耳朶を閉めった熱いものが、ぬるりとなぞる。ぞぞ、と背筋に電流が走り、また僕をおかしくさせる。嫌だと伝えるのに、柊は、外の溝や、穴をしつこく嬲る。その度に、じゅ、じゅ、くちゅくちゅ、と艶めかしい音がして、肩が震える。 「だめ、だめ、ぇ…あ、も、や、あっあ…っ」  何かが迫ってくる。勃ちあがったそれに熱が一層集まっていき、痺れたような感覚になってくる。こみ上げそうになるのを、一生懸命抑え込むのに、出したくないのに、柊は手を止めない。 「や、だめっ、しゅ…っ、でちゃ、…あっ」  そのまま高みへ連れてってほしいという願望があるのに、出したくないという羞恥心とない混ぜとなって、僕の神経を焼き切りそうだ。もう、だめだ…と息が詰まった瞬間に、柊のシャツを両手で握りしめて震える。その瞬間、ぱ、と手が離される。 「ぁ、あ…、…っ、しゅ、う…」  なんでやめちゃうの。  もう、出そうだったのに。  そう思う本能と、やめてしまった柊に目を見張りながら顔をあげる。頬を上気させ、汗を流しながら、潤んだ翡翠が僕を見つめていた。 「先輩、僕のが放置されてしますよ」 「あ…っ」  僕の溢れ出した液体で塗れた手が、ねっちょりと僕の手を捕まえて、またその柊の高まりを握らせる。手のひらを、ぬるりと熱い先端が撫でてきただけで、僕は喘ぎ、腰を震わせた。 「ね?一緒に気持ちよくならないと…」 「しゅぅ…」  ごめんなさい…と呂律の怪しい状態で口を動かすと、つ、と涎が顎を伝った。それにすら、身体は快感を見出そうとしていた、さらに顔が熱くなる。柊の顔が、近づくとその雫を、嬉しそうに啜った。 「んぅ…や、きたな…しゅ、う…」  急いで、顎を手の甲で拭い、唾液を拭き取ろうとするが、すでに舐めつくされた後だった。 「甘いよ…」 「っ、ん…やぁ…」  耳元に唇を寄せて、初めて聴くかすれた色香漂う柊の声に、全身がざわめく。もうこれ以上、気持ちよくなりたくない。離れようとするのに、背後から回された柊の手のひらが、僕の反対の耳からうなじを包み込む。ふと触れられたうなじが、妙に熱くなりだす。  柊がリップ音を鳴らしながら、耳やこめかみ、首筋にキスを降らせる。 「先輩」  名前を呼ばれて、性器のくびれを、こしょこしょときれいな爪でくすぐられる。淡い快感に、迫ってくるそれを抑え込みながら、じわじわと手を動かし始める。 「そう…気持ちいよ…」  先輩…と熱っぽく囁きながら、首筋に吸い付いてくる。じゅ、と音をたてながら鋭い痛みが走ったが、それにすら僕は湿度を持った喘ぎの声しか出せなかった。 「や…だめ…っ、しゅ、もぅ…あっ、でちゃっ、ぁ」  喉をそらしながら、震える身体は限界が近い。それでも、手を止めないように、拙い手淫を柊に望まれるがままにする。 「ぴくぴくしてる、かわいいね…」 「うっ、あっ、も、でるっ、柊っ、でちゃっ」 「かわいい、先輩…そういう時は、イクって言うんだよ」  首筋に何度も吸い付いて、舌が耳元まで舐めあがってくるのを全身がびりびりと痺れて甘い渦へとさらに突き落とす。湿った耳元に熱い吐息を吹き込みながら、柊は微笑みなが僕に囁く。 「い、く…?」  ぼんやりとした頭で唱えると、柊が僕の顔を覗き込んで、うっとりと前髪を撫でつけながらうなずく。 「そう、射精しちゃうときは、イクって言うんだよ」  かわいい、とまた同じことをつぶやきながら、眦にキスをしてくる。二つも年下の柊が、僕を子どものようにあやしている気がするが、それすらも、混沌と甘美な気持ちにさせる。 「ほら、先輩、どう?」 「うあっ、あっ、んん、だめっ、ぁんっ」  ぐじゅ、と先端を強く押し込まれたあとに、根本から先端を包み込むように何度も擦り上げられる。その度に、びくびくと身体は葉ね、何も考えられなくなる。 「やぅ、あ、あっあ」 「ほら、先輩…」 「んうっ」  また首筋を強く吸われて、瞼をきつく閉じると、涙があふれ、つ、と涎が垂れる。それすらも気づかないほど、僕は、柊から与えられる快感に夢中だった。 「あっ、あ…い、く…ぅ」 「そう、上手上手…」  地肌を優しく撫でるように、髪の毛をかき分けられる。それにすら、背筋はぴくん、と仰け反ってしまう。大人にあやされているようで、ますますうっとりと恍惚としてしまう。 「しゅ、ぅ…あ、ん…いく…い、っちゃ…あっ、あ」 「いいよ、一緒にいこ」  そのあとに、柊に何か囁かれたけど聞き取れなかった。聞き返そうとしたのに、速度を増した手のひらに、簡単に気は逸れてしまい、きつく首筋を吸われたのと同時に、大きく身体を跳ねさせて、勢いよく射精をしてしまった。何度も腰が跳ねてソファを揺らす。その隣でずっと首筋を吸い上げながら、柊も長い射精をほとばしらせていた。 「ひーちゃん…僕の、ひーちゃん…大好き…」  ど、と血液が巡り、身体が重くなる中、体験したこともないような、うっとりとした甘美な余韻が僕を包んでいた。だから、柊に唇にキスを落されても、何を囁かれても、ぼんやりと夢心地で理解できていなかった。

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