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第17話

 その日は、期末考査終わりで、いつもより疲れていたのかもしれない。  今まで、テストは緊張することはなく、何かを強く気にしたこともなかった。もしかしたら、テストは教室で、クラスメイトと共に受けるから、それが自分の無意識下でもストレスになっているのかもしれない。横目で熱っぽく見られることも、もう慣れたことだったのだが。  だから、柊からいつものお茶をもらって、数口飲んだら、簡単に眠りについてしまったらしい。 「聖」  跪いている僕は、見上げると彼が捕食者の顔つきで見下ろしていた。ぺろ、と唇を舐める舌がやけに赤く見えた。そして、目線を戻すと、目の前には、彼の股間がある。テントのように張りつめたそこに、目を見張っていると、彼が生唾を飲んで、かちゃかちゃとバックルをいじりだす。そして、長い指が器用にスラックスの前をくつろげると、ゆったりとチャックが下げられる。ど、ど、ど、と深く心音が刻む。僕は、目の前の彼の指先から目を離せないでいた。まるで、呪われたように、じ、とそれを見つめているしかできなかった。  チャックが降り切り、中のボクサーパンツをかき分けると、ぶるん、と長大な男性器が空を見上げるように角度を持って、目の前にかかげられる。それは、僕が見たことのない大きさのものだった。もともと僕以外のもので言うと、彼のものしか見たことはない。しかし、記憶の中の彼のものは、当時は大きく感じられたが、小学生の時のものでしかなく、こんな、大人の男の象徴とするものではなかった。  赤黒いそれは、傘が高く張り出し、血管がびきびきと浮きだっている。太さも長さも、恐ろしさを感じるほどのものだった。 「ほら、聖」  そう言われて、ごく、と思わず唾を飲んだ僕は、彼を見上げる。その瞬間に、唇に、むちゅ、と熱い何かがぶつかる。急いでその熱を見ると、彼の肉棒が、僕にキスをしていた。 「俺の、舐めるの好きだろ?」  彼が、自分のそれで、僕の頬をぺちぺちと叩く。 「さ、さく…っ」  か、と顔に熱が集まり、拒絶しようとするが、手首が後ろでくくられていて、動かない。き、と強い意思を持って彼を見上げるが、それにも彼は恍惚とした表情で舌なめずりをしていた。その獣そのものの瞳に、僕の身体は震える。それは、耽美に震える、僕のあさましい身体の期待の震えだった。 「ほら」  顎を捕まれて、嫌だと言おうと開けた口は、言葉を放つことは叶わなかった。ぬめった彼の熱が、押し込まれてしまったのだ。 「ああ…聖…」  かすれた声で彼は呻くように喘ぐ。上顎を、張り出した頭が撫でつけて、それに、ぞぞぞ、と僕の背筋はうごめく。押し出そうと舌で先端を押すと、彼に頭を撫でられた。驚いて視線をあげると、彼はうっとりとまなじりを下げて、僕を見つめていた。 「そうそう…聖、いいよ…」  瞼を柔く指で撫でられて、じん…と身体の奥が鈍く痺れる。  人に笑顔を見せなくなった彼が、僕に熱の孕んだ瞳でうっそりと微笑んでいる。そして、いい子だと褒めるように、顔や頭をゆったりと撫でてくれる。胃の奥が、きゅん、と切なくなる。  気づくと、それが嬉しくて、彼のそれを、自ら進んで舌を這わせていた。あまりにも大きくて、全部を口に頬張ることはできない分、口内にあるそれに、舌を尖らせて、溝をなぞるようにしたり、強く吸い付いたりする。 「聖、いいよ…かわいい…」  かわいい、という、ずっと言われたかった言葉を聞いて、涙がにじんだ。 「あくぅ…」  名前を呼びたいのに、肉棒が猿轡のように、僕の言葉を奪う。ただ、それが伝わっているようで、彼は目を細めて、両手で包み込むように、僕の顔や頭を撫でる。  ゆったりと、顔を前後に揺らすと、彼の熱い吐息の音が聞こえる。口の中は、生々しい苦みが広がる。それでも、彼のものだと思うと、身体は悦んで、喉を鳴らして嚥下していく。それをきっかけに、僕の前髪を横に撫でつけていた両手に力が入り、奥まで肉棒をねじ込まれてしまう。いきなりのことに、ぐう、と喉奥を閉めて、えづいてしまいそうになるのを我慢する。ずる、とそれが奥から出て行って、身体が緩んだのを狙ってか、また勢いよく腰が進んでくる。何度もそうされて、どんどん、彼の腰の速度があがっていく。その度に、苦しくて、涙が止まらない。 「あっ、うっ、っ、ぅぐっ」  やめて、と言いたいのに、まったく言葉に出来なくて、涙があふれて、息ができなくなってくる。意思を伝えようと彼を見上げるが、口角をあげて、汗を散らしながら僕を見下ろしている。嫌だ、苦しい、やめてよ。そう意思表示をしたいのに、彼が僕に夢中であることが、嬉しくて、内腿が震える。 「あ、あっ…あっ、聖…、っく」  ぬぽ、と彼の熱がやっと口内から出ていくと、咳き込むよりも先に、顎を掴まれて顔をあげさせられる。そして、びゅるっ、と勢いよく、目の前の肉棒から白い液体が噴射される。驚いて、ぎゅ、と目をつむると、びしゃびしゃと長い射精が、僕の顔にかけられる。  顔を解放されると、僕の身体は思い切り咳き込みだす。喉奥をずっと刺激されていたせいで、深い咳がえづきに変わる。それでも、唾液が、だら、と唇を伝って地面に落ちていく。その間も、前髪や鼻、唇にかけられた彼の精子が、ぽた、と伝って落ちていく。僕の頭上を通って、後ろに結ばれている手にもかかった気がする。苦みのある独特なにおいが鼻腔をいっぱいにする。懐かしさを感じるそれに、身体の奥が熱っぽいのに気づく。それを意識する前に、もう一度顎をつかんで顔をあげさせられる。  ぺち、と目元に先端を宛がわれる。ねとりとする肉棒は、そのまま頬を滑って、僕の唇に押し付けられた。もう無理だと、唇を閉じたままにするが、彼がぐいぐいと何度も押し付けくるので、軽く吸い付く。すると、残っていたらしい精子が、ぴゅ、と出てくる。それがなんだか愛らしくて、それがなくなるまで何度か、彼の肉棒とキスをした。 「ああ、かわいい…」  しゃがみこんだ彼が、僕の瞳を覗き込む。じぃ、と熱のこもった瞳で見つめられて、身体は簡単に心臓を高鳴らせる。そして、濡れた頬の精を塗り込むように、彼の親指が撫でる。ゆっくりと、顔が近づいてきて、まだ苦みの残る、僕の唇に触れた。そのあと、耳朶を舐られ、ぞくぞく、と震え、思わず喘いでしまう。しっとりと濡れた耳に、熱い吐息を吹き込みながら、囁かれる。 「好きだよ、ひーちゃん…」  彼はそんな風に、僕を呼んだことはない。  はっと瞼が簡単に開く。乱れた呼吸と、熱い身体を起す。ソファの上に僕は寝かせられていて、いつも通りのカーディガンが僕を包んでいた。 「先輩?」  声がして、びく、と肩が跳ねる。  今日は珍しく、柊がいた。近くの椅子で本を読んでいたようだった。あんな夢を見たばかりで、身体も火照っている。それを、友人である彼に知られてはならないと、カーディガンを身体の前でかき抱く。  しばらく僕を見つめた柊は、立ち上がる。その動作にすらも、身体は跳ねて、過剰反応している。ゆっくりと歩いて柊が近づいてくる。その表情は、無表情なのか、感情が読めない。ビン底眼鏡のせいで、何を瞳が物語っているのかもわからない。内腿をあわせて、膝を身体に寄せる。 「な、なに読んでたの?」  笑顔をつくったつもりだが、口角は片方しかあがらず、上手に笑えなかった。柊は無反応で、長い脚であっという間に、ソファにたどり着いてしまう。柊が腰掛けると、ぎ、と古いソファが小さく鳴いた。身を乗り出すように、僕に近づく。 「しゅ、しゅう?ち、ちかい…」  ビン底はずっと僕を見つめている。後ろめたくて、視線が勝手に泳いでしまう。 「先輩…」  ひっそりと、囁くように柊は僕を呼んだ。そして、そっと僕の膝頭に大きな手のひらを乗せる。本当にそっとだったし、僕はその手の動きをずっと見ていた。わかっていたのに、大げさすぎるほど、身体がびくりと固まってしまう。それは柊に伝わっているはずなのに、伝わっているからなのか、その手はどくことをしない。立てられた膝頭から、そのまま、ゆったりと、下に降りていく。腿の裏側に回ると、皮が薄く大きな血管が通る繊細なそこを、男らしい骨ばった大きな手で撫でられると、思わず、吐息が鼻から抜けていく。急いで、口元を覆い、ぎゅっと目をつむる。 「…手伝いましょうか…?」  ぐ、と歯を食いしばって声が漏れないようにする。柊の手のひらは、足の付け根を撫でた。  指摘されて、視線を落してカーディガンの隙間から、ちょうど柊の指先があり、その先には、スラックスを押し上げる、張りつめたものがあった。予想だにしていない事態に、自分でも驚いて、瞠目し、さらに顔を紅潮させてしまう。ふるふると身体が震えてしまう。情けなさと、恥ずかしさとがせめぎ合い、涙がぼろりとこぼれた。 「聖先輩…」  頬に柔らかなものが当たり、視線を向けると柊の端正な顔がすぐそこにあった。もう片方の手で、僕の口元にあった手に指が差し込まれる。力なく、それは簡単にはがれて、柊が僕の顎先をくすぐってくる。その、戯れさえも、身体はぞくぞくと痺れてしまう。 「ぁ…」  小さく息をもらし、ゆるんだ身体を柊は簡単にほどいていく。するりと、足はソファから落とされてしまい、ひじ掛けが背中に当たる。柊のカーディガンも床にふんわりと落ちていった。

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