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第44話

 マゼンダ色の大きなつつじが咲き誇る中で、僕は一人泣いていた。  何が悲しくて、つらくて泣いているのかは思い出せない。どうしてここで一人でいるのかもわからなかった。  それでも、胸が苦しくて涙が止まらない。大切な何かが足りなくて、心の穴がぽっかりと開いてさみしくてさみしくて、たまらなかった。  大好きな誰かを、ここでずっと待っている気がする。けど、それも明瞭な記憶ではなく、思い出せないことがまたつらくて涙を誘った。  会いたい。  誰に。  助けて。  誰に。  その答えは、一向に出ない。それでも、僕は待っていた。  必ず来てくれるという希望を抱いて、小さな震える身体を抱きしめて、このマゼンダの海の中に一人で蹲る。 ・・・ … 「っあああっ!」  びくん、と激しく身体が跳ねて、大きな声に意識が戻ってくる。自分の声であり、湿った大きなものがのしかかっているそれが、汗ばんだ裸の柊だとと認識するまでに時間がかかってしまうほど、頭の中は靄がかかっていて、不明瞭だった。  とにかく、身体は強い飢餓感に襲われており、射精への渇望が混沌と身体を支配していた。  ぐじゅ、と後ろをめいっぱいに広げた太い熱棒が奥に進むように押し付けられる。 「あぅ…」  きゅう、とどっしりと重いペニスに奥が収縮し、熱を感じ取ってナカが疼く。こぷ、と何度も出された精液が溢れ出る感覚がする。それを戻すように、ゆったりと抜かれてはぐちゃぐちゃとナカをかき乱しながら挿入される。その度に、やっぱりそれは溢れ出ていく。 「ひーちゃん、こぼしちゃだめでしょ?」  か細く震える身体を抱きしめ、こめかみや耳朶にキスをしながら柊が甘く囁く。かすれた低い声が、びりびりと腰にたどり、ナカがまた締まる。 「赤ちゃんできるまで中に出してあげるね」  顔を上げて鼻先をこすり合わせる柊は、目を細めて汗をぽたりぽたりと落とす。その汗のアルファのフェロモンの匂いに、また頭の中が曇っていく。うん、うん、と何度も首を縦に振ると、いい子、と柊は口づけをくれる。滑った舌が僕の口の中いっぱいに埋めてくれて、甘い唾液が流し込まれる。それを身体が、ごくごくとオアシスの水のように飲み込んでいく。 (気持ちいい…おいしい…)  もっと欲しくて、首に腕を回して、柊の口内に舌を差し込んで、歯を舐める。身体に埋め込まれているペニスが、また質量を増して、奥をくすぐる。それがたまらなくて、シーツに足を突っぱねて、腰を揺らめかす。小さい動きでは全然物足りなくて、ぎしぎし、と乱暴にベッドのスプリングを使って上下左右に揺さぶる。 「あっ、あ…やだぁ、しゅう…んぅ…しゅう…」 「んー?」  もっと奥。奥をこすって、熱いのを、かゆいのを、足りないのを、収めてほしい。  乱れる僕を細めたエメラルドの瞳で見つめながら、唇にちゅっちゅ、と吸い付かれる。それだけでも、身体は熱くてたまらないのに、貪欲に求めてしまう。 「してぇ…奥、ぐじゅぐじゅしてぇ…あんっ」 「どこを~?」 「んうぅ…」  両胸を包まれて、むにむにと肉を揉まれながら、柊はくすくすと笑いながら、腰をゆるく引くと、ずにゅう…と埋められていたところが物寂しく痙攣して悲しんでいる。涙を零してアルファを見上げると、べろりと涙を舐めとられる。 「…してぇ…」 「ん?」  入口周辺で細かに抜き差しをされて喉を反らして喘ぐ。脳がどろどろと溶けていく感覚がする。腹の奥が熱くて、へその下当たりに爪を立てる。しかし、それではもちろん物足りないわけで。  ここ数時間、もしくは数日かけて教え込まれた言葉で柊に強請る。 「僕の、おしり、柊のちんちんで、いじめて…」  ぎゅう、と後ろを締めて、熱いカリ首を捕らえる。柊の両頬を包んで唇を突き出してキスをする。何度か吸い付くと、眦を赤くしてゆるゆると微笑んだ柊は、僕の唇を大きな口で覆って、舌を差し込んだ瞬間に、どちゅ、と力強く奥に打ちつけられた。それだけ、びくびくびく、と身体が痙攣するが、もう僕のペニスからは何も出ない。ずっと勃起したまま、震えるだけなのだ。  そして、柊は僕が望んだ通りに、たくましい腰を大きくスウィングさせて、浅いところから、一気に奥までをえぐりとるかのように打ちつける。 「これ、これぇ、ああっ、すき、すきぃっ」  待ってた。これ。  アルファの硬くて大きくて、僕のナカを創りかえるような、熱いペニス。 「すきっ、すきいっ」  好き、と伝えると、柊は僕を悦の中に引きずり込む弱いしこりや奥を速度を上げてこすり上げてくれる。気持ちよくて、目の前がちかちかとして、呼吸も浅くなっていく。 「あっぁあ、あ、んぅ、あん、っん、しゅ、きいっ」 「ひっ、ちゃん、っおまんこ、気持ちいっ?」  どちゅどちゅ、と奥を穿たれながらまた足先を伸ばして僕は快楽の底に突き落とされる。それでも、柊は許してくれなくて、遠慮なく速度を上げて僕に囁く。だらしなく開いてずっと唾液と喘ぎを漏らす口の中に、たら、と柊の唾液が流し込まれる。それを、ごく、と嚥下して、出ている舌に吸い付く。 「きもち、きもちいっ、すき、すきっ」  柊の腰に足を巻き付けて、僕も腰を引いたり打ち付けたりと夢中でさらなる快楽を求める。とにかく、アルファの精子で腹の中をいっぱいにしてほしかった。  足りない…足りない、足りない。  もっと、もっともっと、もっと。 「ナカっ、だし、てっ、あんっ、あっ、してえっ」  背筋を強い電流が流れて、締め付けながら叫ぶように喘ぐと、柊は眉を寄せてさらに速度をあげて、ベッドが叫ぶように軋み鳴り響く。 「ひゃ、あっ、あぁ、ああっ」 「孕め、俺の、精子で、孕めっ!」  奥に膨らんだ頭を押し付けると、内臓をせり上げるように勢いよく柊が弾ける。どくどくと流れ込む液体の熱さに、身体は焦げつき、ぶるぶると震えて悦が身体に渦巻く。 「あ、あぁ、あ…」  見開いた目から涙が溢れて、息も絶え絶えで苦しい…  そうして、視界が白んでいき、また僕は眠りにつく。  身体はアルファの精子に歓喜し、空白を埋めるように快楽を求める。  朦朧とする頭では、壊れる心に気づくことも出来なかった。  もう、誰も助けてくれない。  なら、ずっと気持ちいいことをして、つらい気持ちなんか見たくない。  ずっと泣いている、小さな僕の背中が遠くに行く。 (ああ、みんな僕から離れていく。僕ですら、僕から離れていくんだ。)  暗闇の中に僕が落ちて行っていることはわからなかった。

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