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1話 キラキラ腐女子44歳です!

1話 キラキラ腐女子44歳です!  はじめましての方がほとんどだと思います。  こんにちは、光屋光子(みつや みつこ)と申します。苗字と名前に“光”がつく、まさにキラキラネーム(違う)  アニメオタク、声優オタクで、BL大好物のごりっごりの腐女子(もう女子とは言えない年齢、44歳になりましたので貴腐人ってやつでしょうか?)  幸いなことに理解ある夫にも恵まれ子供も成人して、オタクなのにリア充っていう幸せな日々を送っています。  そんなキラキラ”腐“女子なワタクシですが……。  ここ最近、ひじょーーに、とぉーーーても、妄想沸る事態に陥っていまして……  これはもう!! 誰かに話したい!!!   でも話せない!!!!  でもでも誰か聞いてーーーー!!!!!  いやぁーーん! ゴロゴロ!!(のたうちまわり)  ということで(どういうこと?)筆を取った次第であります。  ほんともう! 聞いてくださいよ!! ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 『あのっ、そのっ。……ボク、先輩となら』 『いいのか?』 『んっ……優しく、してください……  あっ。ああんっ!』  その日、ワタクシと夫くんは息子の部屋のドアに貼り付いて聴き耳を立てていた。  息子の部屋から聴こえる可愛い息子の可愛い嬌声……  攻様の先輩の色っぽい掠れた声。 『ほら、ここは? それともこっちか?』 『ぃやぁっ! そんな……とこ、ダメぇ』 『さっき、いいって言っただろう』 『ぅう……ぃいけど……やっらぁ、あっ、ゃんっ!』  扉一枚隔てた向こう側から聴こえる淫靡なやり取り。  いち腐女子としては物凄く滾る状況なのではありますが…… 「ま、ママ。やっぱ俺、これ以上無理。理解ある方だと思ってたけど、さすがにコレはいたたまれない。」  夫くんが先に音をあげた。かくいうワタクシも…… 「そ、そう……ね。腐女子心よりも母心が優っちゃって純粋に楽しめないというか、息子に申し訳ないというか……背徳感がすごすぎて……うん! 無理!!」  そう言って目の前のドアをバンっと開けると、息子の部屋にズカズカと踏み入る。  そして、そしてどんどん盛り上がっていく息子と先輩の色っぽい声が流れている、  ……CDプレイヤーの停止ボタンを押した。 「はぁーーー」  プレイヤーの横には神絵の描かれたCDジャケットが置いてある。  華麗なビジュの男性2人が寄り添いあったイラストで、その下には出演者2人分のサインが小さくサインペンで書かれている。  ワタクシ達の実の息子 「光屋智晴(みつや ともはる)」  ワタクシの推し 「新見駿(にいみ しゅん)」 「パパ、まじヤバい。出演者本人の部屋からBLドラマCD流すとか、鬼畜すぎ」 「いやいや、俺はSNSで見かけた『BLCDの聴き方部屋の中で流して外のドアから聴くとリアル』ってのを教えただけだよー。『本人の部屋があるんだから、そこで流せばよりリアルでは?!』って言って嬉々として準備したのはママだよね!」 「あうっ! そうなんだけど」 『BLCDを部屋の中でスピーカー再生して、それをドアの外や隣の部屋から壁越しに聴くと、盗み聞きしているみたいで臨場感があっておすすめ』  ……みたいなネット記事を参考に、あろうことか出演者本人の部屋で実行したのはワタクシです。 (最高の環境でBLを楽しみたいって思うのは腐女子としてとーぜんじゃない?)  ……ただ、想定外だった。 「……臨場感どころか、リアル過ぎて無理」 「ねー。っていうか我が息子ながら演技力ヤバすぎるね?」 「ほんそれ。」 「ね。」 (まあ。駿くんの演技も最高ですが!!) 「とりあえずこの続きは後でゆっくりヘッドホンで堪能することにする」 「それがいいと思う。俺も息子の活躍は聴きたいけど……こういうシーンは、もうちょっと心の準備が必要、かな?」  ふむ、ワタクシの趣味に理解と耐性はあるものの、夫くんは腐男子ではない。演技とはいえ、息子が犯されているのを聴くのは複雑な気持ちなのだろう。 (エロ要素のない学園青春パートは「えっ切ないっ」「何それ可愛い!」って楽しそうに聞いていたんだけどな) 「じゃあさ、出演者コメントのほう聴く?」  こういったドラマCDには大抵、出演者のコメントが同時収録されている。『聞いてくれてありがとう』とか『どんな気持ちで収録したか〜』とかそういうやつだ。  このドラマCDの場合は出演声優2人の対談らしい。ふわふわダラダラと2人でおしゃべりする感じが事後っぽくて結構好き(とは夫くんには言えないけど)  最初に新見駿くんと光屋智晴が事務所の先輩後輩という間柄なことが話され、お互いに「みつ君」「兄さん」と呼び合うなど、仲が良いことをエピソードトークを交えて対談していく。 (そう!!! 仲が良いのよ! ワタクシの息子とワタクシの推しが!! もうそれだけで夢のようだわ)  2人のたわいの無い会話に、夫くんも楽しそうに聴き入っているようでよかった、よかった。  やがて 『そういえば、みつ君はBL作品は初めてなんだよね』  と、駿くんが話題を振る。 『そうなんですよ、お話が来たときは悩みましたけど、良い作品だったので〜〜〜それなりに勉強や練習をして挑みました。』  などと優等生回答をする息子。  数ヶ月前、急に実家に帰ってきたと思ったら、思い詰めた表情で「母さん、BLCDを貸してください」って言われた時はビックリしたわ〜。  BL作品のオファーがあったので勉強したいとの理由を聞いて、ワタクシの秘蔵のBL作品を山と貸して、熱くプレゼンしたことが思い出される。 (そういえばその中に駿くんのBLデビュー作も混じっていたわね) 『勉強のために借りたBL作品の中に兄さんのデビュー作もありましたよー。参考にさせてもらいました』 『えぇー何それー、めっちゃ恥ずかしいんだけど!』 (ちょっとちょっとその話、トークに使っちゃうの?! あぁー、でも駿くんのリアクション可愛いからよし!) 『でも、ボクの初めての相手が兄さんでよかったです』 (まってむり、言い方よ! 息子よ、誤解されるその言い方は、狙ってるのか? 天然なのか?!) 『ほんとー? そう言ってもらえると嬉しいな。ちゃんとリードできてた?』 『はい。おかげさまで安心して身を任せられたっていうか〜』 (ちょまっ! 息子ーーおまっ!! そういう腐女子が悶え喜びそうなことをさらっと言うか?! 可愛いかよおい!!) 『だってみつ君、可愛いかったからさ〜』 (駿くんも何? 可愛いのはお前だぁ! そして色っぽっ!! 推せる、これはマジで推せる。駿くんもだが、息子ヤバい。腐女子へのリッピサービス最高すぎんか?! はっ! コレはもしかして腐女子たる母、ワタクシの姿を見て育ったから?! 腐女子が何に悶え喜ぶか熟知してらっしゃる?! なんて恐ろしい子!!!) (これはあれだわ。駿くんのファンが駿くん目当てにこのCD買って、なにこの可愛い受けちゃん。えっ? 新人さん? 駿くんの後輩? 仲良しなの、なに? 可愛いかよ……! って流れで気づいたらすっかり推しになってるパターンのやつ!  少なくともワタクシだったらそうなってる! 息子じゃなくても間違いなく推しになってる!! なのになに?!! 息子よコレ!  ただでさえ可愛い息子が推せる仕事をしているとかなによもう。  そんなん我が息子、ワタクシにとって人生最推しよぉ!!!) 「ママ、ママ!」  はっ!! しまった。あまりのことにゴロゴロと悶えもんどりうっていた。 「さっきからずっと心の声が口に出ているし、智晴の部屋しばらく使っていないから埃が付いちゃってるよ」  そんな夫くんの言葉に今度は恥ずかしさでゴロゴロのたうち回ることになった。

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