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01ヴァニタス・アッシュフィールド7歳

39歳、デブのキモオタ。 それがつい先刻までの、俺に対する自他共に認める正当な評価だった。 大学に進学したが、就職できず。 アルバイトをしながら小説を書き続け、気づいたら四十路手前。 金もない。 地位もない。 名誉もない。 ついでに魅力もない。 どう足掻いても人生詰んでる男、それが俺だった。 だがしかし。 今目の前にある鏡に映る俺は、テレビドラマでしか見たことのないような美少年だった。 黒髪に金色の瞳が不気味ではあるものの、これが黒い瞳だったら、親戚の誰かが某事務所に履歴書を送りそうな程の美少年だった。 「どうしました?ヴァニタス坊っちゃま」 使用人っぽい男女が、鏡を見たまま呆然としている俺を見てオロオロしている。 異世界転生キタコレ。 そういえば、コンビニの夜勤のバイト帰りにトラックに跳ねられた気がする。 つーか、異世界転生モノのトラック運転手、毎回ご苦労様だな。 たまには異世界転生者を跳ねるトラック運転手が幸せになるような物語を書いてくれよ、全国の物書きよ。 ……俺もか。 まぁ、それは横に置いておくとして。 豪華な部屋。 オロオロする使用人。 ほぼ間違いなく勇者ルートではないな。 つまりは悪役令嬢ルートか。 ん?男だから悪役令息か? では、まず今俺がいる世界がどの世界なのかの特定からだな。 異世界転生モノのお約束に従えば、この世界は俺が知ってるゲームかアニメか漫画か小説か何かの世界だ。 うーん。 まずは……。 「俺の名前、ヴァニタスって言うのか?」 小首を傾げて聞いてみると女の方が両手で顔を押さえてしゃがみ込んだ。 「え……っと、お前、大丈夫か?」 女は俯きながら、コクコクと頷く。 コレはアレだ、唐突に推しに話しかけられた時に受けるデバフだ。 俺も俺好みの美少女に小首を傾げて見上げられたらスタン食らうからな……わかる。 「ヴァニタス様こそ大丈夫ですか?」 デバフを食らわなかったらしい男が、心配そうに俺を見る。 「今の俺の名前、ヴァニタスって言うのか? これっぽっちも、さっぱり思い出せねぇんだけど」 はい、俺に知的な返答を求めたヤツは残念だったな。 39歳独身デブのキモオタにコミュニケーション能力なんてあるわけねぇじゃん。 今の状況そのままバカ正直に伝えるぜ。 俺の言葉を聞いた男と、しゃがみ込んでいた女の顔色が真っ青になる。 うん、まぁそうなるな。

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