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01ヴァニタス・アッシュフィールド10歳
「しっかし、成長すればする程悪人面だよなぁ……」
転生後の俺、ヴァニタス・アッシュフィールドの容姿は確かに整ってはいる。
癖の一切ない、ストレートだが重めの黒髪。
年齢を重ねる程に鋭くなっていく金色の瞳。
いかにも主人公側っぽいスピルスとは真逆の方向性に突き進んでいる。
まぁ、悪役令息だしなぁ。
「デコでも出してみるか。でも男のハーフアップとか……どうなんだ?」
いや、中身の俺はともかく、ヴァニタス少年はまだ10歳だし……いいのか?
それに、キモオタの方の俺が死ぬ直前に、ハーフアップっぽい感じでデコ出してたヤンキー漫画のイケメン総長とかいたし。
あんな感じでどーよ?
「……で、おでこを出してみたと?」
「やっぱ似合わねぇ?」
「そんなことはありませんよ。私はその髪型、気に入りました」
スピルスがクスクスと笑う。
「ですが、容姿など気にしなくても良いでしょうに。貴方の外見がどうであれ、中身は頭が良いのにバカ正直で不器用な、愛すべきお方だというのは、私もスヴェンもマチルダも理解していますよ」
「それ褒めてんのか?」
「もちろんです。私もスヴェンもマチルダも、貴方が悪人面だろうが悪魔憑きと噂されようが、貴方を好意的に思っていますよ」
「そっか……いや、お前らはそうかもしれねぇけどよ……つーか、俺の幽閉はまぁ良しとして、スヴェンやマチルダまで巻き込むつもりはなかったのに……」
……そう。
着実に形成されつつある悪人面。
戻らない記憶。
時折飛び出す年齢不相応の言葉。
保身第一のクソ親父をビビらせるには充分で。
俺が屋敷のことを尋ねると、先手を打って「10歳までに元のお前に戻らなかったらあそこに幽閉してやる」と宣言された。
まぁ、俺からすると7歳の子供に乗り移って、子供の自我を食っちまった感覚だ。
だから息子への愛情とか、息子を奪った俺への憎悪とか、そういうのもあるのかなぁと、罪悪感を感じたりもしたんだが……。
「『元々政略結婚の先妻とその息子のお前に愛などなかった』『お前を後継者から外し、妾のマドリーンと正式に結婚し、マドリーンとの息子シルヴェスターを後継者とする』だもんな、あのクソ親父」
まぁ、こっちは公爵家を継ぐつもりはなかったし、ボロ屋敷に籠って物書き生活を楽しむという目的は叶ったし、妙な罪悪感も吹っ飛んで、「良かったな、何なら思いっきり祝福するぜ」という感覚なのだが。
本物のヴァニタスが前世を思い出さずに成長していたらと思うとしょっぱい気持ちになる。
「そんなことありませんよ。スヴェンもマチルダもアッシュフィールド本邸にいた時より楽しそうに見えますよ?」
「そうか?」
首を傾げると、貴方はご自分のこととなるとたちまち鈍感になりますね……とスピルスに笑われる。
「まぁ、3年の間に屋敷を人が住めるように整えてくれただけでも御の字か。スピルスが教えてくれたこの領域魔法も想像以上に有能だしな」
そう、結界を張るだけだと思っていた領域魔法は、俺の想像以上に優秀だった。
領域内であれば重いものも自由自在に動かせるし、何より木や土などの領域内に存在するものから、便利な品を錬成することができるのだ。
例えば、紙と鉛筆。
この世界は流石はファンタジー世界というか、紙は羊皮紙を使う。
しかし、中身は現代日本のオッサンである俺に羊皮紙は扱い辛い。
だから紙が錬成できた時はスピルスを神だと思ってしまった。
……紙だけに。
わかってる。
寒いのはわかってる。
外見は美少年(ただし悪人面)でも、中身は42のオッサンなんだから、おやじギャグやおじさん構文は許して欲しい。
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