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06ヴァニタス・アッシュフィールド10歳

そう前置きすると、俺はゲームということを伏せて「アルビオンズ プレッジ」の話をした。 やがて、この世界の7つの国の王は、魔王配下の魔物に成り代わられる。 ラスティル王国の王も例外なく葬られ、王に成り代わった魔物にラスティル王国は圧政を強いられる。 騎士団長となったユスティートが異変に気づくが、洗脳された騎士と魔物に襲われ、命からがらラスティル王国から逃亡する。 この時、ユスティートを庇ってスピルスは命を落とす。 各地を放浪して仲間を集めたユスティートは、この屋敷の地下通路からラスティル王国に潜入しようとする。 その際、この屋敷でユスティートは地下通路を守る俺……ヴァニタスを殺害。 その後、アッシュフィールド本邸側の出口で待ち受けている、父ナイジェルを殺害。 「ユスティートは俺と父を殺した後、無事ラスティル王国に潜入し、国王に成り代わっていた魔物を倒す。国民を圧政から救い出し、後にラスティル国王になる。そんな夢なんだが……」 既に相違点がある。 「アルビオンズ プレッジ」では、この屋敷は廃墟で、『ヴァニタス・アッシュフィールドが悪魔憑きでこの屋敷に幽閉されている』という噂話もなかった。 「だから信憑性には欠ける。でも、不安の種は潰しておきたいのは事実だ。俺がユスティートに殺されるのはともかく、スピルスが死ぬのは俺……嫌だし」 沈黙が落ちる。 そりゃそうだろう。 だって、どう考えても根拠のない夢物語だ。 「……この夢を見て、ヴァニタスは記憶を失った。そうですね?」 「いや……今の俺視点だと、先にこの夢を見ていて、気づいたら何もかもを忘れて鏡の前に立っていた」 全てを話したわけではないが、嘘は言っていない。 この世界で、ヴァニタス・アッシュフィールドとして生きると決めた今、前世の記憶など夢に過ぎない。 「スピルス様……」 スヴェンがスピルスを見る。 スピルスは口元に手を当てて考え込んでいたが、やがてゆっくりと顔を上げた。 「全部夢物語、ヴァニタスの見た白昼夢と決めつけるのは早計でしょう。実際、あの時ヴァニタスは私が自己紹介をする前に大賢者と口にしました」 「で、では……俺が、貴方を……殺…………」 俺はユスティートに目線を合わせてニヤッと笑うと、ワシワシと銀色の柔らかな髪を撫でた。 「俺はまだ殺されてねぇし、生きてるし。それに夢の通りになったとしても、非常時だ。お前のことを恨んだり憎んだりなんてしねぇよ」 「私はユスティートがヴァニタスを殺したら心底ユスティートを恨み、呪いますがね……夢の通りならその時私も死んでいるんでしたっけ? じゃあゴーストにでもなって地下通路でユスティートを襲いましょうか?」 おいおい、スピルス……。 「王、が……」 スヴェンは王について口にしていた。 そりゃ、一番重大かつ、俺たちに阻止が可能かどうかわかんねぇのはそこだ。 スヴェンはしばらく考え込んだ後、ユスティートの青い瞳を見据えた。 「ユスティート、君は強くなりたいか?」 「はい!」 ユスティートは力強く頷く。 「じゃあ決まりだ。君に俺の戦闘技術の全てを叩き込む。地下水脈への同行も許可する。戦闘に参加せずとも、実戦を肌で感じるだけで得られるものもある」 無事、ユスティート同行の許可が降りた。 しかもスヴェン、ユスティートを鍛えるつもりか?

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