14 / 112

02地下水脈

井戸の底へと降りると、既にスヴェンとユスティートが左右に別れて交戦していた。 「ユスティート、戦場では生還こそが勝利と思え! ひとりで突っ走るな! 危険だと判断したら引け!」 「はい、師匠!」 そう言いながら、骸骨剣士たちをバラバラにはしているが……。 「バラバラになった骨、動いていますね」 「スピルス、ゴーストも来やがった」 ゴーストには物理攻撃は通じない。 「俺は歌ってみる。効かないかもしれねぇし、聴いても速効性はねぇから、魔術でフォローしてくれ」 「わかった」 俺は『プロミスド サンクチュアリ』とは別のバンドの楽曲を歌い始める。 アニメ主題歌ではないが、『プロミスド サンクチュアリ』にハマった俺は、一時期ビジュアル系バンドの音楽を聴きまくったのだ。 『天使祝詞』というタイトルのこの楽曲は、讃美歌やアヴェ・マリアが組み込まれた男声楽曲だ。 スヴェンとユスティートにバラバラにされた骸骨剣士たちが塵となって消えていく。 ゴーストたちの動きも鈍った気がする。 服の聖属性バフの効果かもしれねぇけど、とりあえずは効く。 「『燃える剣持つ偉大なる天使の長よ。我に神聖なる紫の炎を与えたまえ』」 スピルスの詠唱でゴーストが紫の炎に包まれ、霧散する。 スヴェンが最後の骸骨剣士を砕くと、俺の歌う『天使祝詞』で霧散した。 俺は歌を『天使祝詞』から『プロミスド サンクチュアリ』に切り替える。 井戸に繋がる出入り口周辺に結界が展開されたが、あくまでも俺の視界の届く範囲だ。 領域外を領域に組み込む場合は、ジワジワと領域を広げてゆく必要がある。 「しかし、スピルスに感謝だな。服による聖属性バフにここまで効果があるとは思わなかったぜ」 俺はマチルダがくれた蜂蜜の飴を口の中に放り込む。 優しい甘さが歌で酷使した喉を癒してくれる。 「でしたらその服、ずっと着ていてください。普通のモンスターにも戦闘意欲減退などの効果がある筈ですし……ヴァニタスに似合いますし」 似合うかどうかはわかんねぇけど、これだけ効果があるなら確かに悪くねぇかもな。 「ヴァニタスの身長体重スリーサイズは常に把握していますし、成長して合わなくなったら、ピッタリのサイズのものを作って渡します」 どうして俺のスリーサイズまで把握してるんですか? と、思わず現場猫顔になりつつ……今はそれどころじゃない。 「まずはアッシュフィールド本邸までの一本道を制圧しよう。一本道の制圧が終わったら、途中にある別れ道から下って、水脈と湖を目指す。ユスティートは決して無理はするな」 「平気だ、この程度。師匠もいるからな」 強がりではなさそうなところが怖い。 流石は未来の大英雄だ。 「戦場としては生ぬるい部類だ。ヴァニタス様とスピルス様の援護もある。俺が必ず3人を守る。安心しろ」 スヴェンは完全に執事モードから剣士モードに切り替わっている。 「頼りにしてるぜスヴェン。スピルスやユスティートも。じゃあ手っ取り早くアッシュフィールド本邸までの地下通路を制圧して、水脈に向かうか」 前世の俺に足らなかったのは、こうして仲間を作ろうとする意欲、誰かを頼ること……だったのかもしれねぇな。

ともだちにシェアしよう!