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05地下水脈
アッシュフィールド本邸側入り口から、しばらく屋敷側に足を進めると。
「あー。わかったわ。あそこ。俺の領域の筈なのに俺の領域のモンじゃねぇみてぇな異物感がある」
恐らく、通路を先に自分の領域にしないと気づけない違和感。
先程のように俺が歌でバフをかけてスピルスが俺のモノじゃない領域魔法を解除する。
しばらくすると、壁がぐにゃりと歪み、古びた木の扉となった。
「閉ざされている状態であれば、ヴァニタスの領域魔法で敵は入って来れません。しかし開けると、アンデッドモンスターやゴーストが山程押し寄せます」
「……面白い」
何かスヴェン舌なめずりしてるし。
本当に、何でお前執事とかしてんの?
「俺が開け放って中に飛び込む。ユスティートはついて来い。スピルス様は魔法でゴーストをお願いします。ヴァニタス様は殿で明かりを持って歌を。扉は必ず閉めてください」
俺とユスティート、スピルスが頷くと、スヴェンが扉に手をかけた。
「行くぞ」
スヴェンは、躊躇なく軋む木の扉を開けて中に飛び込む。
続いてユスティート、スピルス。
そして俺。
流れる水の音が聞こえる。
そして、先程の比じゃない骸骨剣士とゴーストの大群が押し寄せる。
俺は指示通りに扉を閉ざすと、『天使祝詞』を歌いながら3人の後を追う。
スヴェンは次々と骸骨剣士をバラバラにして、スヴェンが取りこぼした敵をユスティートが倒す。
スピルスは紫の炎でゴーストを焼く。
戦術自体は先程と変わらない。
しかし……。
しばらく進むと、大きな湖に出た。
天然のダムのように透き通った水が溜まったそこは、しかしすぐ先に滝があり、落ちたらそのまま滝の方に引き摺られて落下して死ぬのが目に見える。
そんな湖の上に、美しい少女がふわりと浮いていた。
明らかにゴーストであるその少女は、俺たちをキッと睨みつける。
[許さない、許さない]
[私たちの仲間を……私たちを殺した]
[お前らを許さない]
そう……だよな。
お前ら、何の罪もないのに理不尽に此処で殺されたんだもんな。
「スヴェン、ユスティート、2人は下がってくれ。スピルス、支援を……防御障壁を頼む」
「あ……おい! 待てヴァニタス!」
待たない。
彼女たちには、アッシュフィールドの末裔の俺がケジメをつけるべきだと思ったから。
無防備に躍り出た俺に彼女たちは困惑する。
そう、彼女“たち”。
目の前の少女ゴーストは1人だが、その正体は此処で人身御供として殺された少女たちの霊の集合体だ。
俺は『天使祝詞』を歌う。
[これは……この歌は]
[力が……憎悪が奪われる]
[年端もいかぬ子供のくせに]
[おのれおのれおのれ]
少女ゴーストの放った衝撃波が、スピルスの防御障壁を破って俺の肩と足を貫く。
「ヴァニタス!?」
「ヴァニタス様!?」
俺はスピルスとスヴェンを制してニヤリと笑う。
「それが正当な恨みや憎しみ、憎悪でも、自分を手にかけた加害者ではない赤の他人に向ければ、それはただの八つ当たりだろ?」
俺は溢れ出した血で地面に俺中心で円を描く。
俺の唾液や血を付着させれば、本来であれば消えてしまう筈の紙を、領域外でも維持することが出来る。
ならば、領域魔法士にとって自身の血や体液は、『領域外を強制的に自分の領域に上書きする』効果がある筈。
俺は再度『天使祝詞』を歌った。
キラキラとした白い羽が湖を舞い……。
[ァ……アァ…………]
[お母……様…………]
純白の光に包まれた、穏やかに微笑む女性が、幽霊ゴーストを抱き締めた。
[お母様……]
[私を、助けて……]
幽霊少女は涙を流した。
俺は歌を『天使祝詞』から『プロミスド サンクチュアリ』に切り替える。
今度は虹色の光が、この領域を俺の領域へと塗り替える。
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