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06地下水脈
虹色の光が消え、完全にこの場は俺の領域下となった。
「落ち着いたか?」
俺が声を掛けると、少女ゴーストは俺の背後にいるスピルスを指し示す。
[お前、何故そっちの紫の子供を使わなかった。その子供ならお前は無傷で、私たちを燃やし尽くすことが出来た]
確かに、スピルスなら彼女たちを跡形もなく消滅させることができただろう。
俺が怪我をする必要もなかった。
でも……。
「燃やし尽くしたくなかったからに決まってんだろ。お前は骸骨剣士やゴーストと違って、話が通じると思ったから」
にこりと微笑むと、少女ゴーストは毒気を抜かれたように溜め息を吐いた。
[お前は愚か者だ]
「まぁ……それは間違ってないかも。スヴェンに怒られるのは決定的な気がするし。スピルスにも怒られる気がしないでもないし」
うん。
背後から怒りのエネルギーが溢れてる。
今正直後ろを振り向きたくない。
苦笑を浮かべると、少女ゴーストは呆れたような瞳で俺を見た。
「君、名前は?」
[ある筈なかろう。私たちは此処で死んだ娘たちの集合体だ]
「じゃあメモリアって名前はどう?みんなの記憶や思い出が集まったのが君ってことで」
少女ゴーストは一瞬キョトンとするが、しばらくすると突然笑い出した。
[名前がないからつけるって……あんたってば本当に……まぁ、いいわ。好きに呼びなさい]
少女ゴースト……メモリアの口調が少女のそれへと変わった。
[それで、あんたの名前は?]
「ヴァニタス」
[ヴァニタスね、覚えておくわ]
表情も、少女のそれへと変わる。
キャラクターに名前をつけると途端にキャラクターが動き出すという文字書き特有の実体験から得た挑戦だったが、どうやら上手くいったようだ。
「メモリア、聞きたいことがあるんだけど……いい?」
[私たちに答えられることなら]
「此処は魔力……というか、大地の力が集まった場所だよね?」
[そうね、この水脈自体が霊脈でもあるんだけど、この湖周辺は特に大地の力、マナが濃厚よ]
やっぱりそうか。
此処を俺の領域下にした今なら、此処と俺の血液を付着させた紙を陛下とスピルスに持たせて、緊急時に発動する細工を施した上で此処に転送する術式を組み込めば、ゲーム通りに2人が殺される展開になった時に、彼らを救出出来るのでは……。
「この馬鹿息子が!」
あれこれ考えていた脳に火花が散る。
剣士モードのスヴェンパパがとうとう我慢できなくなったようだ。
「いたたたた……ごめんってば!」
「わんぱくなのは結構だが、事前に説明しておけ! 心配するじゃないか!」
スヴェンが俺を振り向かせて抱き締める。
うわぁ。
スヴェンもだけど、スピルスも何かめっちゃいい笑顔してるぅ。
[そうよ。まずは怪我の治療をしてもらいなさい。地下通路も、この地下水脈も既にあんたの領域よ、ヴァニタス。私たちも消えないし、あんたが生きてる限り凶悪化もしないわ]
メモリアまで心配してるって、どんだけ?
まぁ……外見年齢10歳だから仕方がないか。
「また来るね、メモリア」
[待ってるわ、ヴァニタス]
スヴェンに抱き抱えられ……っていうか、これってもしかしなくてもお姫様抱っこじゃね?……俺はメモリアに手を振った。
「…………ヴァニタス、良かった」
ユスティート泣いてるし。
いやそんなんで、将来俺のこと殺せるの?
いや、そのフラグはとっくの昔に折れてたりする?
「良くありませんよ」
スピルスの地面を這うような声に、俺は思わずヒッと情けない悲鳴を上げる。
「お仕置き。お仕置きですね、これは。さて、どんなお仕置きをしましょうか? 楽しみで楽しみで仕方がないです。今後ヴァニタスが1人で突っ走らないよう徹底的に調教しておかなければいけませんね。いやぁ……楽しみですねぇ」
スピルスが怖い。
いつもの120倍怖い。
「スヴェン……」
「甘んじてお仕置きを受けてこい」
こっちもこっちでご立腹だ……。
正直、地下水脈制圧後に、メモリアとの戦闘よりも恐ろしい時間が待っているなんて、地下に挑むまでの俺は想像すらしていなかった。
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