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03唐突なる別離

そして更に時間は流れ……。 「我はアッシュフィールド家後継者、シルヴェスター・アッシュフィールドである! 兄上にお目通り願いたい!」 白馬に乗って表れ、正門で堂々と名乗りを上げる長身の男。 濃紺の髪に同じ色の瞳を持つ……。 「…………何か、想像と違うな」 「異母兄弟とはいえ、お前の弟だからな。馬鹿正直な所は似てるんじゃないのか?」 余計な一言を躊躇なく口にする、それがセオドアクオリティ。 「あの真っ正面から堂々とくる馬鹿正直さなら、本人が何かを企んでいるというよりも、荷物として何かを持たされていたり、本人に何かの術式が組み込まれている可能性が高いか。従甥殿はあの弟を応接室に案内してやれ。俺が隣室で解析してやる」 ホントに一々偉そうだな、この男。 自己肯定感半端ねぇ……まぁ、王様だしな。 俺は屋敷の門を開けた。 「ヴァニタス・アッシュフィールドだ」 シルヴェスターも、俺本人が出迎えたのには面食らったらしい。 「この屋敷は人がそんなにいねぇんだ。入るなら入れ。早く入らねぇと閉め出すぞ」 「う、美しい……」 …………ん? 何だかよくわからんこと言い出したな、この男。 「おい、お前大丈夫か?入らねぇとマジで閉め出すぞ」 俺としちゃこのまま引き返してくれた方がありがたいがな。 「兄上……」 「…………ん?だから入るのか帰るのか……」 「兄上は本当に悪魔憑きなのですか!? 父上が母上と結婚したいが為に悪魔憑きと偽って兄上を幽閉しているのでは!?」 間違っちゃいない。 というより、父親であるアッシュフィールド公爵の動機としてはそれが正解だ。 だが、今俺は自分の意志で此処にいるし、この屋敷は既に魔王配下による国家転覆阻止の拠点となっている。 「アッシュフィールド家に戻りましょう。私が父上を説得します」 …………っ、んなぁ!? こ、こいつ……俺のことを軽々とお姫様抱っこしやがった。 ま、まぁ……キモデブだった前世と違って今はスリムだからなぁ。 シルヴェスターはそのまま、俺をお姫様抱っこしたまま屋敷を出ようとする。 いやいや、まてまて。 「もしかして、スピルスに何か言われた?」 「えぇ。賢者スピルス樣に兄上が本当に悪魔憑きなのか確かめて来いと……」 スピルスぅううう!? お前もう確実に黒に近いじゃないかぁあああ!! 「シルヴェスター樣、どうか即決せず……」 「お疲れでしょう? 屋敷で少しお休みになられては?」 駆けつけたマチルダとアルビオンが助け船を出してくれた。 良かった、助かっ……。 「黙れ!! 使用人風情が!!」 …………は? 「このアッシュフィールド家後継者、シルヴェスター・アッシュフィールドに、使用人ごときが意見するな!! 反吐が出る」 なっ……おまっ…………。 「ふっ……ざけんなよ!!」 屋敷前を彩るいくつもの花壇。 その美しさに似合わない、パシンと乾いた音が響いた。 俺がシルヴェスターに平手打ちをしたのだ。 続いてシルヴェスターの胸を肘で殴り、怯んだシルヴェスターの腕から飛び下りる。 「俺にとって、マチルダとアルビオンは家族同然の存在だ。そんな2人を“風情”とか“ごとき”とか言って見下すヤツなんかこっちから願い下げだ。悪魔憑きで結構。アッシュフィールド家になんか絶対に帰らねぇよ、ばーか」 俺はシルヴェスターに向かって喚くと、屋敷に駆け込んで扉を閉ざし、鍵を掛けた。 しばらく窓から様子を窺っていると、暫し呆然としていたシルヴェスターは、やがて立ち上がると来た時同様颯爽と白馬に乗り、立ち去った。

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