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02唐突なる別離
髪を伸ばし始めたのも、スピルスが伸ばして欲しいと頼んだからで、願掛けの意味合いもある。
スピルスに会いたい。
会って、会って……それから……。
夜、身体を清めて就寝用の軽装に着替えた後。
執筆しようとするも意識が向かず、身体の熱を持て余す。
書斎から寝室に戻って、ベッドに寝転ぶ。
息が上がっていた。
若い……且つ思春期の身体だからだろうか?
軽く胸の突起を弄るだけで、電流が走ったように身体が痙攣する。
「スピ……ルス…………」
自慰の間中、呼ぶのはずっとスピルスの名。
掌に白濁を吐き出すと、思わず泣き出してしまう。
これが恋……なのだろうか?
俺が知りたかったもの。
前世の俺が、知ることができなかったもの。
気が狂いそうな程に誰かに執着し、一方的に相手を求めてしまうもの。
そう、これは一方的な感情だ。
スピルスが俺のことをどう思っているのかわからないのに、俺は俺の激情をスピルスにぶつけている。
身体と心に反して、頭はスピルスが魔王側の人間だと受け入れてしまっている。
スピルスの目的は変わらない。
ユスティートを殺し、表向きは自分も殺されたように見せかけ、ユスティートに成り代わることだ。
だがユスティートの傍らには今、スヴェンがいる。
ユスティートもスヴェンも、緊急避難用の術式を所持している。
ならば俺をどうにかしようと考えるが、セオドアが俺の領域魔法に手を加えてしまったことで、スピルスはこの屋敷に足を踏み入れることができない。
俺がスピルスなら、この状況下でどう動くだろう?
スピルスは、姿を消したセオドアが俺の屋敷にいることは把握している筈だ。
でなければ、俺の領域魔法がスピルスを弾くことに説明がつかない。
俺たちは、仲違いなどしてはいない。
ユスティート……は、わからないが、スヴェンは確実にこの計画に一枚噛んでいる。
この屋敷に誰かを向かわせるなら、当然俺の父親であるアッシュフィールド公爵が適任だろうが、そちらはユスティート側で抑止するだろう。
スピルスが動かすことができ、尚且つ、ユスティートやスヴェンでは抑止できない存在……。
「動かすなら、シルヴェスターか……」
殆ど面識の無い、俺の異母弟。
アッシュフィールド家の後継者。
まだ後継者、しかも15歳の少年であるが故にユスティートやスヴェンは抑止しきれない。
弟が、悪魔憑きの兄を殺す。
日本風に言えば、「精神疾患の兄を介助しきれず殺してしまった」か。
情状酌量の余地はあるだろう。
特に、この世界のような殺し合いが日常茶飯事なファンタジー世界であれば。
シルヴェスターがアルビオンとセオドアまで倒してしまうことができれば儲けものだ。
最悪、俺を殺すだけでも緊急避難用の術式は使用不可能となる。
当初の計画通り、ユスティートとスヴェンを殺し、ユスティートに成り代わることが出来る。
後は自分の影武者なり人形などを動かすか、ユスティートとスピルスの2役を演じて、丁度いいタイミングでスピルスを殺せばいい。
でも、それは……。
「俺のことなんてどうでもよかった。道具としか思っていなかったってことだよな……スピルス」
頭に、感情がついていかない。
涙が溢れてくる。
これが恋なら、俺は恋なんて知りたくなかった。
だって、こんなにも……呼吸が上手くできなくなる程に、苦しい。
恋なんて、知りたくなかったよ……。
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