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01唐突なる別離

ヴァニタス・アッシュフィールド、17歳。 転生してから10年ヴァニタス・アッシュフィールドをやっていることになる。 赤津孝憲で計算すると、精神年齢49……それ以上はいけない。 アラフィフじゃん。 想像以上にダメージ大きいだろ、これ。 この4年で、いろいろあった。 ありすぎた。 ヴァニタス・アッシュフィールド本人としては、身長が176cmくらいまで成長したこと。 せめて180cm越えたかったなというのは贅沢だったらしい。 ちなみに、同じく17歳になったアルビオンには見下ろされてるし(あいつは180cmあるかないか)。 現在14歳のユスティートにすら見下ろされている。 ユスティートは「アルビオンズ プレッジ」だと18歳で185cm越えるから仕方がないのだけれども。 俺の悪人面も相変わらず。 ハーフアップも相変わらず。 ただ、髪を肩口より下まで伸ばして、スピルスが最後にくれた数着の司祭服とストラを丁寧に洗って大切に着ている。 170cmに成長したスピルスとは、会えなくなってしまった。 それというのも……。 「我が従甥殿は相変わらず朝が早いな。そして朝から美しい……流石は俺の従甥だ」 「…………陛下」 「陛下はやめろ。今のラスティル国王はユスティートだ。俺はただのお前の従兄弟伯父、セオドアだ」 ある日突然ラスティル国王セオドアが、ユスティートを養子にして、王位継承権を与えると言い出した。 ユスティートは元々貴族の三男坊で家柄的にも立場的にもスムーズに養子縁組みが進んだ。 問題はその後だ。 ユスティートがラスティル国王の養子となった2年後……つまり、昨年。 ラスティル国王が譲位を表明して王位をユスティートに譲ると、姿を消した。 ……というのは表向きの話だ。 ラスティル国王セオドアは、俺がスヴェンを通して渡していた緊急避難用の術式を使ってこの屋敷に避難してきた。 それだけなら、まだ……ギリギリ問題ではなかったのだが。 「今、何を……した」 「スピルス・リッジウェイの避難術式のみ解除した。俺は魔法士の魔法や魔術に手を加えたり魔改造するのが得意でなぁ。後でスピルス・リッジウェイが侵入できないように、結界にも手を加える」 俺が睨みつけると、俺と似た顔で180cmを余裕で越える長身の男は、ニヤリと笑みを浮かべながら俺の顎を持ち上げた。 「お前もある程度察しがついているのではないか?俺が魔王なら、このラスティルに配下を送るならあのガキの位置だ。幼少期に送り込み、周囲に愛着を抱かせた上で、俺を殺しラスティルを乗っ取る策略を確実に実行に移していく。実に上手い手じゃねぇか」 「……まだ、スピルスが裏切り者だと、魔王の配下だと決まったわけじゃない」 とはいえ、地下水脈制圧後のスピルスとのやり取りが浮かぶ。 『魔王のホワイダニット』……スピルスはこう口にした。 スピルスは「犯行は魔王が人間を愛しているが故のもの」と言い、もしそうなら魔王に好感を持つと俺が伝えると、スピルスは嬉しそうに笑った。 あれはスピルスが魔王側の人間であるが故の言葉であり、表情だ……そう言われると、否定はできない。 でも、それならそれでスピルスに会って話がしたい。 もう会えなくなるなら、せめて別れの挨拶くらいはしたい。 「我が従甥殿も随分絆されているようだ。いや、恋焦がれていると言った方が正しいか?」 恋。 「でも残念だな。俺はガキの恋心よりも安全を優先する。スピルス・リッジウェイに会いたければ、ラスティルに何もトラブルが起こらず、予言の日が過ぎ去ることを祈るんだな」 あれから、スピルスに会っていない。 屋敷にはセオドアが住み着き、スピルスに会いに行こうとすると目敏く見つけ、咎める。 スピルスに、会いたい。 会って、話がしたい。 会って……それから…………。

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