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02決闘前夜
まずは、俺の領域魔法を見直そう。
俺の領域魔法の核となるのは『錬金術』『体液』『歌』だ。
『錬金術』。
この領域内限定で、俺は錬金術を扱える。
錬金術で作成できるものは「領域内に材料があるもので、尚且つ前世含めて俺が触れたことがあるもの」だ。
例えば、俺はサトウキビの錬成が可能だ。
前世の修学旅行で沖縄に行って触れたからだ。
サトウキビを錬成し、それを砂糖に再錬成することも可能で、食べることも可能だ。
マチルダの料理やお菓子にも俺が錬成した砂糖が使われている。
一方、チョコレートやココアパウダーは錬成できない。
原材料であるカカオ豆に触れたことがないからだ。
また、生物は錬成できない。
バターやチーズから牛乳を錬成、逆に牛乳からバターやチーズを錬成することは可能だが、乳牛を錬成することは不可能だ。
「そういえば、メモリアがこんなことを言っていたな……」
俺の錬成した食べ物には俺の魔力が宿っているらしい。
だから、この屋敷に滞在した者は大なり小なり俺の魔力を摂取している……と。
続いて、『体液』。
俺の体液は、領域外を強制的に自分の領域に上書きする効果を持つ。
基本的に、俺の領域内で錬成したものは領域外に持ち出すとやがて消える。
だが、俺の体液を付着させれば消えずにその形を維持することができる。
言わば、体液はもう一人の俺自身だ。
俺の血液で魔法陣や呪文を描いた羊紙皮を持ち出せば、世界の反対側にいても俺が魔術を行使したのと同等の効果を得られる。
だが、俺が死んだら描かれた魔法陣も呪文も無効になる。
「…………ちょっと、待てよ」
セオドアは俺が負けた場合、俺の処女を奪うと言った。
俺はてっきり、スピルスに恋する俺に対する嫌がらせだと思ったが……。
「セックスするってことは、俺の体液を大量に摂取するということか……」
ましてや、セオドアは魔法士の魔法や魔術に手を加えて魔改造することができる。
俺の体液を大量に摂取し続ければ、この屋敷を、俺の領域を完全に乗っ取ることが可能なのかもしれない。
「これは……絶対に負けられねぇな…………」
いやでも、処女を奪うって……アイツ俺に勃起するのか?
男相手に?
勃起……するか?
「…………」
まぁ……そこは今の俺にはわからない。
……が、勃起すると仮定した上で、アイツの目的は俺の領域を俺から奪うことだと目算しておこう。
最後は『歌』。
俺の歌は領域内に俺の魔力を浸透させ、領域を維持、強化させる。
領域内に侵入してきた、俺が必要としない異物を消し去ることも可能だ。
地下水脈でスヴェンやユスティートにバラバラにされた骸骨剣士たちが塵となって消えたのは、この影響だろう。
一方、地下水脈のメモリアとの戦いを思い出すに、俺の歌は任意の相手の精神に影響を及ぼすのだろう。
地下水脈での俺の歌は彼女から憎悪を奪い、母親の愛を思い出させた。
「検証不足なのは『歌』か」
苦手意識もあって、歌の検証には積極的に着手していない。
だが地下水脈での一件から考察するに、歌詞や歌う俺の意図、意思によって仲間にバフを与えたり、人間相手に精神撹乱のデバフを与えることが出来てもおかしくはない。
「とりあえず、前世の『歌』で覚えているものを書き出してみるか……」
俺は書斎へと足を向けた。
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