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03決闘前夜

翌日。 俺は地下水脈の湖で、メモリアに召喚してもらった骸骨剣士6騎と対峙していた。 「模擬戦闘、開始!」 メモリアの号令と共に、骸骨剣士が突っ込んでくる。 間合いを詰められたら、俺は終わる。 俺は血で魔法陣を描いた金属片を取り出した。 屋敷にある金属を、前世で言う免許証やポイントカードの大きさにあらかじめ錬成して、魔法陣を描いておいたものだ。 「《再錬成》」 魔力を注ぐと、金属片は複数の剣へと変わり、骸骨剣士へと目掛けて飛んでゆく。 骸骨剣士、前衛2騎が砕けた……よし。 ……が、残り4騎が突っ込んでくる。 「…………っ!」 血で魔法陣が描かれた1枚の紙を取り出して魔力を流す。 俺の姿は消え、紙は塵になって消える。 俺は骸骨剣士の背後に瞬間移動した。 「《穏やかな聖母の声よ、彷徨い疲れ眠る骸に深く響け》」 『天使祝詞』の歌詞の一節を口にすると、砕けた骸骨剣士2騎が消える。 良かった。 威力こそ軽減するが、効果はある。 しかし、すぐさま後ろを振り向いた後衛1騎が剣を構えて突進してくる。 「《再錬成》」 素早く金属片に魔力を込め、再錬成した剣を飛ばして砕き、 「《響け》」 今度は『天使祝詞』の歌詞を更に短くした一節を向ける。 骸骨剣士は塵になったが、この一言だけでは1騎を消すのが限界だろう。 やはり、歌詞の長さは効果に比例するようだ。 歌うのが最も効果が高いが、1対1の決闘では歌って無防備になるのは極力避けたい。 残り3騎となった骸骨剣士が間合いを取る。 「《祈りも願いも焼き尽くす業火よ、私を苛む世界を飲め》」 昨日書き出した前世の歌『蛍火の嘆き』の一節を口にする。 炎が現れ2騎を飲み込むが、1騎は盾で炎を防いだ。 ……やはり、一節を口にするだけでは限界がある。 俺は再度紙を取り出し、魔力を込め、盾で炎を防いだ1騎の後ろに回り込む。 「《再錬成》」 今度はスヴェンやユスティートが所持する大きさの剣を錬成して、背後から骸骨剣士を叩いた。 砕けて、崩れる骸骨剣士。 素早く離れて充分な間合いを取り、『天使祝詞』を今度は歌った。 燃えている骸骨剣士も、砕かれた骸骨剣士も、塵となって消える。 湖は静寂に包まれた。 「強くなったわねぇ。10歳の頃とは大違いよ」 メモリアが拍手をする。 「ありがとうメモリア。でも、決闘の相手はセオドアだ。付け焼き刃がどれだけ通用するか……」 知略に優れた、ラスティルの元国王。 セオドアにとっては、俺は世間知らずのガキでしかないだろう。 しかも、セオドアとの決闘に前世の記憶は全く役に立たない。 「あー! もう! ヴァニタスってば焦り過ぎ!」 メモリアが俺の頬を摘まんで左右に思いっきり引っ張った。 地味に痛い。 「ヴァニタスは理屈で物事を考え過ぎよ。もっと感情を大切にしなさい」 引っ張られた頬を撫でていると、メモリアが俺の鼻先に指を突き出した。 「『スピルスに会いたい』でもいい。『会えなくて悲しい』でもいい。『スピルスに合わせろコラ』という怒りでもいい。とにかく感情を大切にしなさい。少なくても、決闘へのプレッシャーは軽減するわ」 あ、それは……。 前世でも度々言われていたことだった。 俺は理屈で物事を考え過ぎていて、だからプレッシャーを感じやすかったり、モチベーションを保てなかったりしがちだと……。 「スヴェンを思い出しなさい。アイツは戦いを楽しんでいたじゃない」 戦いを、楽しむ……か。 確かに、そうかもしれない。 昨日書き出した歌にどんな効果があるかどうか試す……そんな軽いノリで挑んだ方が案外上手くいくのかもしれない。 「メモリアありがとう。もう一戦、模擬戦闘を頼めるか?」 「任せて! 模擬戦闘、再開」 再び骸骨剣士が6騎現れる。 俺は知らず知らずのうちに、ニヤリと口角を上げて笑っていた。

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