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04決闘前夜

2週間みっちりと模擬戦闘を繰り返し、決闘前日。 この日はのんびり休むことにした。 疲れを残したまま決闘に挑んで負けては元も子もない。 最早この世界で一番落ち着く場所となった書斎で、過去に執筆した小説を読む。 昔は自分の作品を読み返すことにかなり抵抗があったのだが、最近は自分の書いた作品こそが、最も自分に刺さることに気づいたのだ。 「自分の性癖をそのまま描き出してるようなモンだから、自分に刺さらないわけないんだよな」 そう呟いて紅茶を口に含むと、ノックの音が響いた。 「はーい」 「ヴァニタス、入ってもいい?」 アルビオンだった。 「どうぞ」 声を掛けると、アルビオンがクッキーと羊皮紙を持って入ってきた。 「マチルダからの届け物。お茶請けにどうぞ」 「ありがと。お前も食べてけよ。今お茶淹れる」 お茶を淹れると、アルビオンは向かいに座った。 マチルダのクッキーを摘まむ。 「お、バタークッキーじゃん。まだ温かいし、サクサクしてるのにしっとりしてる。美味い」 「じゃ、俺も遠慮なく……本当に美味しい」 嵐の前の静けさとは、こういうことなのだろう。 あまりにも平和過ぎて、明日が決闘なのだということを忘れてしまいそうだ。 「そうそう。もうひとつお届け物。こっちは弟クンから。読むのは決闘の後でもいいよ」 「シルヴェスターから?」 渡された羊皮紙は文字でびっしりと埋め尽くされている。 シルヴェスターの想いと共に。 確かにこれは、シルヴェスターの真摯な想いを受け止める為にも、落ち着いている時にじっくりと時間をかけて読んだ方が良さそうだ。 「ありがとう。決闘が終わってから読むよ」 「了解」 マチルダのバタークッキーを口に放り込み、顔を綻ばせるアルビオン。 「あのさ、アルビオン。聞いてもいいか?」 「…………ん?」 「お前はさ、スピルスのことを好意的に思っていないんだろ?」 「ん……まぁね」 「何故なのか、根拠を聞かせてもらってもいいか?」 アルビオンは沈黙しながら紅茶をゆっくりと飲んだ。 少し悩んでいるのかもしれない。 「うーん……そうだねぇ。俺にはスピルスが“ヴァニタスと同じ”に見えるんだ」 「俺と同じ?」 「以前、ヴァニタスが大人の男性……前世の赤津孝憲だっけ? に見えるって話をしたよね」 アリスの一族の生き残りであるアルビオンの赤い瞳には、俺の姿が時々前世の赤津孝憲に見えるらしい。 そう告白された時、俺は前世についてアルビオンに話した。 「とはいえ、最近はヴァニタスは今のヴァニタスとして見えることが多いんだよ。多分ヴァニタスが赤津孝憲の転生者としてではなく、この世界を今生きるヴァニタス・アッシュフィールドとして生きることを決めてるからだと思う」 「…………そうなのか?」 「うん。で……さ、スピルスも同じなんだよ。時々、スピルスの姿がヴァニタスの前世と似たような服装の男に見えるんだ。スピルスの場合はずっと変わらず、会えなくなる直前まで男の姿が鮮明に見えていた」 「…………は?」 それってつまり……。 スピルスも俺と同じ、異世界転生者……ってことか?

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