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02会談−午前−
「……懐かしいですね」
「そう……だな」
かつてスピルスに小説を読んでもらった書斎に俺とスピルス、アルビオンの3人が入室する。
俺はスピルスにソファに座るように促す。
振り返ってアルビオンを見ると、帯剣している彼は黙って首を横に振った。
「警戒されていますね……仕方がありませんが」
スピルスは冷静だ。
「スピルス、率直に聞いていいか? お前は魔王か、魔王側の人間なのか?」
「直球なのはヴァニタスらしいとは思いますが、私がその質問に素直に答えると思いますか?」
そりゃそうだよなぁ……。
「質問を変える。お前、『アップル』とか『アンドロイド』という言葉を聞いて、何を連想する?」
スピルスが固まる。
少しの間俺を真っ直ぐ見据え、それから俯いて考え込むように下唇に指を当てた。
この時点で答えは明白だった。
スマートフォンのないこの世界の人間なら、この2つの言葉を聞いて何かを連想することはない。
スピルスはやがて諦めたように、ゆっくりと顔を上げ……微笑んだ。
「スマートフォン……ですね。21世紀の日本の必需品」
スピルスはそう呟くと、小さく息を吐いた。
「お前、やっぱり……」
「えぇ。この国、ラスティル王国の転生者は貴方と私の2人です」
2人……?
「何故2人だと断言できるんだ?」
「それ、は……」
沈黙が降りる。
スピルスは口を開かない。
アルビオンも扉に凭れて沈黙したまま。
長い静寂。
痺れを切らした俺が口を開くより前に、俺の司祭服からポヨンとスライムが飛び出した。
お~ま~え~は~!!
俺が絶叫しかけたその時、スライムは人間へと姿を変えた。
年齢は20代後半。
180cmを越える長身。
ウェーブがかった黒髪のミディアムヘア。
シルクっぽい風合いのシャツに、ネイビーのカーディガン。
細身のジーンズ。
明らかにこの世界にはない、21世紀の日本風のファッションの男がそこにいた。
「この世界で前世を思い出すには条件があるんだよ。
“前世が21世紀の日本、あるいはそれに近いパラレルワールド”
“前世で『アルビオンズ プレッジ』のゲームをプレイしているか、していなくても内容をだいたい把握している”
“前世が悲惨だったり、前世で苦しんだり、悔いが残ってる”
この条件に該当すると、遅かれ早かれ前世の記憶を取り戻すんだ」
スライムだった男は、微笑みを浮かべながら説明する。
「魔王……魔王? うーん。とりあえず、まぁいいか。前世の記憶を取り戻す前から、魔王側はこの条件の該当者がどの国の誰なのかがわかる。そして、仲間に引き込もうとするんだ。転生者はだいたい、恨みや憎しみを抱えたまま死んでるからね。俺はそういうの嫌なんだけどさ。せっかく転生したんなら、“弟”たちにはこの世界で楽しく暮らして欲しいし」
「柚希さん、魔王様から“見つけたら即捕縛して送り返せ”との命令が出ています」
「…………だよねぇ。何であの子は俺みたいなスライムなんかにこだわるんだろ?もっと有能な転生者いっぱいいるじゃん」
「だいたい、貴方のせいです」
スライムだった男とスピルスは知り合いらしい。
それに、内容からして……。
「やっぱり、魔王と面識があるんだ……スピルス」
スライムだった男と話していたスピルスは、俺の一言にまた表情が強ばり、俯いた。
これはもう間違いないだろう。
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