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04会談−午後−
「ヴァニタスの領域魔法をこの国全体に広げる……か」
「この屋敷の地下水脈より強い霊脈の上に立つ、ラスティル王国の城ならヴァニタスの領域魔法を王国全体に広げることが可能でしょう」
「セオドア様、ユズキ殿」
スヴェンが立ち上がった。
セオドアと柚希の視線が彼に注がれる。
「既に遅いのかもしれませんが、ヴァニタスがこの国の守護を司ることになってしまったら、あの子はもうこの国から出ることが出来ません。この国という名の籠の鳥となってしまいます。私はヴァニタスの父親代わりのつもりです。私はこの国の為にあの子を犠牲にしたくはありません」
「スヴェン殿……」
柚希がスヴェンの名を呟く。
セオドアは黙って立ち上がったスヴェンを見据える。
「アッシュフィールド公爵の問題もあります。アッシュフィールド公爵としては、ヴァニタスを生涯この屋敷に幽閉して国民から隠し、シルヴェスター様を後継者にしたい筈です。この屋敷内で活動するならともかく、城にヴァニタスを連れ出して守護を任せるのであれば、流石にアッシュフィールド公爵の存在は無視出来ません」
「領域をラスティル王国全体に広げて、それを維持するのであれば、ヴァニタスは定期的にラスティル王国内で歌って回る必要性も出てきます。国民の目にもつくでしょうし、アッシュフィールド公爵は快くは思わないでしょうね」
スヴェンの言葉に、スピルスが重ねる。
この国の守護を担う……そんな大役を任されるとは考えてもいなかった。
かつての俺は国の平均基準からドロップアウトしたコンビニ店員で、例え俺が叫んでも、どんなに大声を上げても、国に声など届くわけがないと思っていた。
そんな俺が、ひとつの国家の守護を任されるなんて……。
「兄上が了承するのであれば……」
シルヴェスターもスヴェン同様立ち上がる。
「父上の説得には私も尽力します。でもそれは、“兄上が了承するのであれば”です。私の願いもスヴェン殿同様、兄上の幸福です」
堂々と言い放つシルヴェスターの言葉を黙って聞いていたセオドアが、頬杖をつきながら溜め息を吐いた。
「…………だ、そうだ。アッシュフィールド公爵の件は横に置いて、愛されているヴァニタスはどう思うんだ?先日は俺がお前をこの城という名の鳥籠に閉じ込めたが、この国の守護を担うというのであれば、お前は自ら、自分の意志で鳥籠に飛び込むことになるが……」
確かに、俺は俺を鳥籠に閉じ込めたセオドアに反発して決闘を申し込んだ。
でもそれは自由に飛び回りたかったからではなく、スピルスに会いたかったからだ。
スピルスと会って話をしたかったからだ。
「スピルスが、傍に居てくれるなら……」
俺はスピルスを見つめた後、この会談に参加している……リビングに集まっている全員の顔を見回しながら告げた。
「此処にいる全員や、マチルダやメモリア、皆にこれからも会えるなら、会って話が出来るなら、俺はその世界を鳥籠だとは思わない。俺が守るべき、大切な世界だと認識するよ」
記憶が甦る前、ヴァニタス少年が残した記憶を思い出す。
決して、良い記憶ばかりではない。
この国の民も、きっと善人ばかりではないだろう。
でも……。
「俺にこの国の皆を守る力があるのなら、守りたいと思う。もう誰かに辛い思いをさせてしまうのは嫌なんだ」
トラックに轢かれる直前、助けた小学生の男の子を思い出す。
確かに命は守った。
でも、俺の死の瞬間を見せつけてしまったのは事実だ。
あの子はきっと深い傷とトラウマを抱えてしまった。
守りたい人がいて、俺に守れる力があるなら、俺は全力で守りたい。
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