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声を奪われたカナリアの罪証

「アッシュフィールド家の祖先はラスティル王国よりも古くから、このラスティルの地を守ってきた尊き血筋なのです」 この話を無邪気に信じていられた頃は幸せだった。 実際には罪無き少女たちを生け贄に捧げていたのだと知るまでは。 何が尊き血筋だ。 犠牲になった少女たちの呪いを受けた一族ではないか。 アッシュフィールド公爵家を継ぎ、ラスティル王国の血の血筋でもあるロータリア王国の姫君、レオノーラを妻として迎えた頃が私の絶頂期だった。 レオノーラはラスティル王家特有の艶やかな黒髪と金色の瞳を受け継いだ美しい姫だった。 そのレオノーラが気狂いになるなど、誰が想像出来たか。 マドリーンとの逢瀬が原因? 貴族の男であれば、妾の一人や二人所有するのが当然ではないか。 それを理解できないレオノーラが公爵家の妻に相応しくなかったのだ。 いや。 本当はわかっている。 責任転嫁でしかないことを。 私はレオノーラの言う通り、レオノーラとその息子ヴァニタスをトロフィーとして、所有物としてしか見ていなかった。 レオノーラとヴァニタスに、自分と同じように心が……感情やプライドがあるとは考えていなかった。 マドリーンやシルヴェスターに対しても同じだ。 性欲処理用の女、ヴァニタスが壊れた時の代替え品としてしか認識していなかった。 全ては心あるヒトを、自我の無い道具として扱ったのが原因だ。 私はどう足掻いても加害者だ。 罪人だ。 頭ではわかっている……が、受け入れられないのだ。 だから責任転嫁をする。 「シルヴェスターは?」 「外出されています」 使用人の言葉に、激昂しそうになる自分を必死に抑える。 私の所有物のクセに私に何の報告もなく勝手に出掛けているシルヴェスターへの怒りと、そもそもシルヴェスターは自我と意思を持った立派な人間であり、私の所有物ではないのだからと嗜める私。 こんな醜い人間になりたかったわけではなかった。 古くからこのラスティルの地を守ってきたアッシュフィールドの祖先たちと同じように、故郷であるラスティル王国と大切な人たちを守れる勇敢で優しい英雄になりたいと憧れていた筈なのに。 幼き日のあの思いは、何処に忘れてきてしまったのだろうか? 「ナイジェル様」 「マドリーン……」 「難しく考える必要はないのです。貴方には罪も責任もありません。レオノーラ様が自害されたのも、ヴァニタス様が悪魔に心を支配されてしまったのも、全てお2人の弱さが原因です。貴方が御自身を責め苛む必要など何一つとしてないんですよ」 聖母のように私を優しく抱き包みながら、甘く囁くマドリーン。 あぁ、私は……。

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