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01あと2年待て

「セ オ ド ア さ ま ?」 会談終了後。 地を這うようなスヴェンの声に、セオドアの身体がビクリと震えた。 「な……なんだ、スヴェン」 「決闘……どういうことですか?」 やっぱりソレか。 「いや、俺負けたし。負けたからこの会談を開いたんだし」 「『俺が勝ったらお前の処女を俺に捧げて貰おう。痛かろうが意中の相手がいようが逃げることは許さん』……って言ったんですって? ヴァニタスに?」 「うぐ……」 「…………ウチの大事な愛娘に何つーこと言ってくれてんだテメェ! ドタマかち割られてぇのか!? そのお綺麗な顔を二度と見られないくらいにぐちゃぐちゃに潰されてぇのか!? あ"ぁん!?」 ドンッ!! という音が響いた。 壁に背を当てて引きつった笑いを浮かべるセオドア。 セオドアを壁に押しつけて壁を叩き割らんばかりに音を立てて手をつき、冷ややかな笑顔を浮かべているスヴェン。 壁ドンだ!! スヴェンがセオドアを壁ドンした!! つーか、愛娘? 今愛娘って言ったか? 誰のこと? もしかして、俺!? 「あ、あれは……ヴァニタスに決闘を諦めさせる為にだな…………」 「手を出すと言ったら手を出すだろうがテメェは!? こちとらテメェの女グセと男グセの悪さを知り尽くしてんだよボケッッッ!!」 「スヴェン、お前、言葉、口調……」 「うるせぇ!! テメェはもう国王でも何でもねぇ隠居ジジィだろうが!! 地下水脈の湖に沈めてやろうか!!」 「ま、まだジジィって年齢じゃない……」 す、凄い……。 あのセオドアが冷や汗垂らして、しかも目が若干潤んでる。 「俺は地下水脈に沈みたい……」 突然柚希が床に座り込んだ。 「ど……どうしたんだよ、柚希?」 「朝から水に浸かってない。乾いて死にそう。しかもずっと変身しっ放しで魔力も枯渇しそう……死ぬ」 そう呟いた柚希はスライムの姿に戻った。 いつもよりサイズが小さい。 ……柚希の正体がスライムなことを、ぶっちゃけ忘れてた。 「俺が地下水脈に連れて行くよー。シルヴェスターも一緒に来ない? ……お前もアッシュフィールドの血縁でしょ? 地下水脈とアッシュフィールドの祖先が担ってきた役割を知っておいた方がいいと思う」 アルビオンがスライムとなった柚希を抱き上げ、シルヴェスターに声を掛けた。 シルヴェスターも素直に頷く。 「教えて欲しい。父上と対峙する為にも把握しておきたい」 「シルヴェスターは相変わらず素直で可愛いねー。というわけだから、ヴァニタスはスピルスとゆっくりしてよ。つもる話もあるでしょー」 「賢者スピルス、兄上との関係は分かったが、兄上に手は……」 「シルヴェスター、ほら行くよー。柚希が干からびちゃうからさ。いずれ食材にするにしても、干からびたら美味しくないからね」 「…………柚希殿を食材として考えないでいただきたい」 ん? アルビオンとシルヴェスター、いつの間にあんなに親しくなったんだ? ま、いいか。 スヴェンとセオドアの話し合い(?)もしばらく終わりそうにないし。 むしろ、今日中に終わるか疑問を感じるレベルだし。 「俺の寝室行こ、スピルス。書斎は午前の会議で使ったまま片付けてないし」 「し、寝室……」 スピルスが真っ赤になった。 あ……。 釣られて俺の頬も火照る。 「そ、そういう意味じゃなくて……あの、と、とにかく行こう」 俺はスピルスの手を引っ張った。 指先から、掌から伝わる体温。 心臓が、バクバク行ってる。 鼓動が早い。 こんな状況になるなんて、朝寝室を出た時は想像もしていなかったな……。

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