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02あと2年待て
寝室に入って施錠した途端、スピルスが俺を抱き締めた。
「ヴァニタスの匂い……」
「いや、それは変態っぽいぞ」
「背伸びましたね」
「うん……まぁ」
「髪も伸びたね」
「それは……願掛けっていうか……」
「私と再会する為に?」
「…………っ!!」
ズバリ言い当てられて動揺する。
そうだよ、お前との再会を願う願掛けだよ、悪いか。
「嬉しいです、ヴァニタス」
スピルスは俺をベッドに座らせると、俺の膝の上に乗り上げた。
スピルスの顔のドアップに、心臓が早鐘を打つ。
「ヴァニタス、顔も耳も真っ赤ですね」
「う、うるせぇな……」
俯こうとした顎を持ち上げられる。
スピルスの視線から逃れられない。
「ヴァニタス……」
スピルスの指先が唇に触れた。
たったそれだけで身体が跳ねる。
スピルスは俺の反応に満足げに笑うと、指先を滑らせた。
スピルスの指が伝う唇が、チリチリと熱を持ったように熱い。
唇の熱に浮かされていた俺の身体をスピルスが軽く押す。
たったそれだけで俺の身体はベッドに沈んだ。
「な……に…………」
指先よりも柔らかい何かが唇に触れた。
ようやくそれがスピルスの唇だと気づいた時には、指でなぞられて熱を持ったそこに、生暖かく滑る舌が這っていた。
腰がビクンビクンと蠢く。
芯に身体中の熱が集まってゆくのがわかる。
呼吸をする為に開いた唇からスピルスの舌が侵入した。
歯列を確認するようゆっくりと舌で辿られた後、困惑と期待で震える舌を絡め取られる。
ザラついた舌と唾液が絡み合う度に、背筋がゾクゾクと震える。
舌先はスピルスのそれを離すまいと俺の意思を離れて勝手に動く。
何故かそれがとても怖かった。
「…………っ、ふっ」
スピルスの舌が俺の舌から離れた……と思ったら、喉の奥に彼の舌先が触れた。
誰にも触れられたことのない箇所から、舌の先端まで一気に舌先を滑らせるスピルス。
「っ!!」
頭が真っ白になり、涙がボロボロと溢れた。
転生前から決して他人の手で与えられたことのなかった快楽というものに、溺れそうになる。
最後にねっとりと互いの舌を絡ませてから、スピルスがチュッと舌を強く吸い上げ、また腰が跳ねる。
スピルスは名残惜しそうに俺の唇から溢れた唾液を舐めると、司祭服に手を掛け……。
「2年待て」
慌ててそう口にした。
「……は?」
「抱くのはあと2年待て。お前のその身体が18歳になるまで待て」
スピルスはポカンとしている。
「お前が18歳になったら、その時は絶対に逃げない。誓う。だからあと2年待て」
スピルスは俺を見下ろしてしばし考え込んだ後、納得したように頷くと、俺の隣にゴロンと転がった。
「そうですね、性的同意は大切です。相手の性的同意を得ないまま強行した性行為は、どんなに相手が快楽を感じていても、強姦と同じです。後で相手が苦しむことになります」
隣でそう呟き笑うスピルスに、俺も安心して微笑みを向けた。
「…………ありがとう」
スピルスは首を横に振った。
「こちらこそ、思い出させてくれて感謝します。前世の日本では性的同意年齢が13歳と低いのにも関わらず、性的同意という概念すら多くの男性は持っていませんでしたし……心理学を学ぶ者として頭を抱えていたことすら忘れていました」
スピルスはポツポツと前世の記憶を語る。
心理学部に入る生徒は自身も悩みやトラウマ、葛藤を抱える者も多く、その中には性の悩みを抱える女生徒もいたそうだ。
親や家族からの性虐待や性加害に苦しむ女性も、相手が100%悪いその経験を自分の責任のように責め苛む女性の姿も、スピルスは……虎田大和は目の当たりにしてきたのだ。
※2023年7月13日、性的同意年齢が13歳から16歳に引き上げられました。
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