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02黒騎士

「ヴァニタスの件は聞いたか?」  セオドアの問いに、フィニスは頷く。 「魔法でこの国を守護してもらう為にヴァニタス様を城に招く。その為に、ヴァニタス様をこの屋敷に閉じ込めているアッシュフィールド公爵と話し合いの場を設ける……でしたね。ユスティートから話は聞きました」 「お前は、その……」 「ヴァニタス様の“悪魔憑き”の噂ですか?」  フィニスはクスリと笑う。  美人は笑っても美人だ。 「ユスティートから地下水脈の冒険の顛末を聞きました。その後のヴァニタス様との交流も。私は噂よりもユスティートの判断を信じます。ヴァニタス様は信頼できる方だと」  流石ユスティートの父親だと思った。  パッと見は全身黒づくめの冷たい美形なのだけど、この男は善性の塊だ。 「ただ……ユスティートから口出ししようとすれば、アレクシス宰相が阻止しようとするでしょうね。アレクシス宰相は子供であるユスティートを見下しています。当然、アッシュフィールド公爵家の使用人上がりのスヴェンのことも……」  スヴェンの名前を聞いて、たちまちセオドアが仏頂面になった。 「彼らからアッシュフィールド公爵に提案しようとすれば、当然アレクシス宰相は横槍を入れるでしょう。彼は姉君のマドリーン公爵夫人を敬愛していますから、そういう意味でも邪魔に入ると思います」  今話で聞いたばかりだが、アレクシス宰相というのはとんでもなく厄介な男だな。  俺は溜め息を吐きながらアルビオンに問いかけた。 「なぁ、アルビオン。お前はアレクシス宰相を見れば、宰相が“転生者”だとわかるか?」  アルビオンは頷く。 「断言はできないけど……恐らく。アレクシス宰相はもちろん、マドリーン公爵夫人も。そしてウィリディシア王女とやらも」 「…………そうか。アレクシスが“転生者”だった場合、強引に縁談を進めているウィリディシア王女も“転生者”である可能性があるのか」  おい。  こら、セオドア。 「お前、何を他人事のように言ってるんだよ。お前が宰相に任命したんじゃねぇのかよ」 「……あ、あの時は真面目な男だと思ったんだ。アッシュフィールド公爵からの圧力も強かったし」 「お前、俺にあれだけ上から目線で暴言吐きまくったクセに、親父ごときの圧力に屈してんじゃねぇよ!」 「…………すまない」  俺とセオドアのやり取りを聞いていたフィニスがクスクスと笑う。 「流石はスヴェンの養い子ですね、セオドア様」 「あぁ。愛する者とその養い子には敵わないな」  薄々気づいてはいた。  でも……。 「セオドアとスヴェンは、その……」  セオドアはコクリと頷く。 「スヴェンはどうか知らないが、俺はスヴェンを愛している。だから俺は結婚が出来なかった。養子を取って王位を譲ることはお前の予言がなくても、元々考えていたことだったんだ」 「ティアニー公爵家もまた、王家の血縁者ですからね。歴史はアッシュフィールド家に劣りますが」  ユスティートも公爵家出身だったのか!?  俺、『アルビオンズ・プレッジ』というゲームは知っていても、現実のラスティル王国の実情は何も知らないんだな。  世間知らずの箱入り息子にも程がある。

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