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03黒騎士
「やっぱり、俺はこの屋敷から出たい」
この屋敷にいるのは幸せだ。
みんな優しく温かく俺を支えてくれる。
でも……。
「俺はもっと知りたい。このラスティルという王国のことを。この国を愛して……愛を持ってこの国を守る為に」
そう口にすると、フィニスは微笑み、セオドアは時々スヴェンがするようにワシワシと俺の頭を撫でた。
「……っつーことは、やっぱり俺の出番か。多少の危険は覚悟の上で、俺が城に戻って、アレクシスを抑える。ヴァニタスをアッシュフィールド公爵に引き合わせた上で公爵を説得する。……いつまでもこの屋敷で引き籠もってるわけにはいかねぇか」
セオドアが溜め息を吐く。
「わかってはいたけど、この屋敷は居心地が良くてつい……な」
苦笑を浮かべるセオドアに、俺も微笑みを浮かべる。
居心地が良いと言われるのは素直に嬉しい。
それが、最初は隔意に満ちていたセオドアの言葉なら尚更だ。
穏やかな空気が流れる。
それをぶち壊すように、窓からスライムが飛び込んできた。
そして……。
「俺が王様に化けて城に行くって手もあるけどね」
セオドアそっくりの姿に変身する。
柚希だ。
「いや、流石にそれは洒落にならないだろう」
セオドアは即答した。
柚希の言う通り、柚希がセオドアに化けて城に潜り込めばセオドアは安全だ。
だが、それでは予言通りだ。
魔物が、元ではあるが国王に成り代わることになってしまう。
「俺自身が城に戻る。だから身代わりは必要ない」
セオドアの言葉に、柚希はいつもの……彼の前世、美容師の姿に戻った。
フィニスが絶句しているが、柚希とセオドアはお構いなしだ。
「それは良かった。お兄さんが王様の代わりにって話になったら、色気が溢れて本物の王様じゃないってバレかねないもんね」
「俺に色気がないとでも言いたいのかユズキ。少なくとも、ヴァニタスよりは色気はあるぞ」
「あぁ……それは確かに」
柚希とセオドア、いつの間にこんなにも打ち解けたのか。
……そして、俺を巻き込むなお前ら。
「スヴェンやユスティートとも相談して段取りを組もう」
セオドアの言葉に、フィニスが頷く。
「セオドア、俺がこの屋敷から解放されたら、俺は絶対にお前を守る。お前もユスティートも、絶対に魔王になんて殺させない。俺が守る。もちろんスヴェンも」
「…………ガキが、いっちょ前の口ききやがって」
そう言いながらも、セオドアは何だか嬉しそうだ。
確実に、この屋敷に来た当初よりセオドアは態度も言動も軟化している。
国王というのは案外孤独な職業なのかもしれない。
俺もこの屋敷から出て、ユスティートやセオドアの支えになれればいい。
俺のモラトリアムは、前世を思い出した直後に思い描いた形とは違う形で終わりを告げるのかもしれない。
それでも、俺のやりたいことは変わらない。
俺のやりたいことは小説を書くこと。
これは今も変わらない。
でも、俺は無知だった。
だからこそ、知ることが必要だ。
知れば知る程、俺の小説の内容も深みが増す……と思う。
俺は、モラトリアムが終わった後でも小説を書き続けるだろう。
それがどんな物語になるのか。
密かに楽しみにしている俺がいる。
スピルスも。
大和も。
モラトリアムが終わった俺が描く物語を、変わらず楽しんでくれるだろうか?
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