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03事故物件

「ソルティード・アイテール。セオドアの兄……か」 「お前は何者だ。その髪と瞳は王家の……」 「俺はヴァニタス・アッシュフィールド。アッシュフィールド公爵家の長男。セオドアの従甥だ」  ソルティードはポカンとしている。  そうか。  俺はセオドアの従甥なら、目の前のこの男にとっても従甥だ。 「俺の母親はロータリア王国の王女レオノーラだ」 「成程、だから従甥……それにしてもセオドアにそっくりだな。多少、いやかなり目付き悪りぃけど」 「いや、お前に言われたかねぇよ。あと、今のセオドアも相当だからな。俺には可愛らしい天使のセオドアが想像できねぇよ」  ソルティードは大笑いした。 「お前なかなか強かだな。普通に喋ってるが、俺は一応幽霊だぞ。しかも人を殺しまくった怨霊だぞ」 「…………らしいな」  でもなぁ……。  第一声が「セオドア可愛い♡ 天使♡」だもんな。  緊張感も抜けるわ。 「残念だが、セオドアも俺以上にふてぶてしく育ってるぞ」 「そりゃそうだろ? ラスティルの国王陛下だ。つーか、お前な。いくら従甥でも国王陛下を呼び捨てはねぇだろ? 最低限、“様”くらいはつけろ」  なんか、幽霊に説教されてるぞ。  でも……そうか。  知らないんだな、コイツ。 「今、セオドアは国王じゃない」 「…………は?」 「ティアニー公爵家のユスティートを養子にして、王位を譲った」 「…………どういうことだよ。意味わかんねぇよ」  俺は溜め息を吐きながら、ソルティードに説明した。    予言。  魔王。  転生者。  それらがなくとも、セオドアが結婚できない事。  特に後半になればなる程、ソルティードは真っ青になっていった。 「お前、どうしたよ。大丈夫かよ」 「俺の……せいだ」 「…………は?」 「セオドアが結婚できないのも、子供作れないのも俺のせいだ」  ソルティードは泣きながら語った。  幼いセオドアに手を出していた事。  そりゃセオドアの歯切れも悪くなる訳だよ。  現代日本で言えば立派な性虐待だ。  レイチェルの言ってた「ソルティード様はセオドア様を虐げていた」は間違いではない訳だ。  でも……。 「確かにお前は悪い。お前がセオドアを虐げていたのは確かだ。“愛していたから”で許される問題じゃない」 「…………」 「でも、セオドアが結婚しないのは全面的にお前のせいってわけでもねぇよ。セオドアはスヴェンを愛してるんだから」  そのセオドアのスヴェンへの愛も、きっかけがソルティードの性虐待だったという可能性ももちろんある。  ソルティードの母親、それから恐らくソルティードの所業から避難する為に、セオドアは国外に出た。  その時に護衛として同行したのがスヴェンだ。  傷ついたセオドアがスヴェンに依存したというのは充分に考えられる。  でも今、セオドアはスヴェンと一緒に居て幸せそうだ。  それを“性虐待によるトラウマのせい”と言い切りたくもない。  ソルティードは溜め息を吐いた。 「正直言うと、そのスヴェンという男のところに殴り込みに行きたい」 「…………だろうな」 「でも……それはやるべきじゃないんだろうな。むしろセオドアを救ってくれたことを感謝すべきなんだろうな」  話してみてわかった。  ソルティードは空気が読めない男じゃない。  生前の所業も、それだけソルティード自身も追い詰められていたという事だろう。  だからといって、ソルティードに罪が無いとは言わないが。

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