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04事故物件

「俺は……どうしたらいいんだろう?」  ソルティードがぽつりと呟いた。 「セオドアが危険なら救いたい。救えずとも力になりたい」 「…………」 「でもセオドアからしてみたら、俺の姿を見ることも嫌……というより苦痛、なんだろうな……」  ソルティードの呟きを聞きながら、俺は錬成を試みる。  もうこの居住区は俺の領域だ。  ならば錬成も可能な筈。 「…………って、お前、俺の話聞いてねぇだろ!!」 「ああして……こうして……っと、できた!!」  俺が作ったのは、ふわふわモフモフの黒猫のぬいぐるみ。  この肌触り、たまらねぇ~。 「お前なぁ、俺は深刻に悩んでるんだぞ」 「わかってるよ」 「何でふわふわモフモフの黒猫とか作ってるんだよ。ちょっと羨ましいじゃねぇかよ……。違う、俺は怨霊だぞ。祟るぞ」  涙目で言うちょっと可愛いソルティード。  俺はぬいぐるみのお腹に血で魔法陣を描くと、ソルティードに差し出した。 「はい」 「何で俺に差し出すんだよ?」 「これに憑依したらどうだ?」 「憑依?」 「これならセオドアの前に出てもバレないし、影からアイツを守ることもできるだろ?」 「…………」 「モフモフモフモフ~。この触り心地最高!! 我ながら超良い出来!!」 「俺が憑依してるのがわかってモフモフモフモフしやがってこの野郎!! 離せ~!!」  俺の腕の中で、猫のぬいぐるみが本物の猫のようにジタバタしてる。  中身はソルティードなんだけど、超可愛い~♡ 「どうしよう。お兄さん『モラ書き』のマスコットキャラクターの座を奪われる危機かもしれない」 「そんな座いらねぇよ!! つーか助けろ~!!」  柚希がメタな発言した気がするけどスルーしとく。  つーか、『モラ書き』のマスコットキャラクターの座を自称するとか図々しいにも程があるだろ。  はっ!! スルー出来なかった!! 「それにしても、憑依を了承するとは思わなかったな」  黒猫(のぬいぐるみ)のソルティードは俯いた。 「このままじゃ俺、何のために生まれたのか、何のために此処にいるのか、わかんねぇからな……」 「…………」  ソルティードの気持ちはわかる。  同じ気持ちを、転生前に嫌という程感じていた。 「セオドアを守る為だったら、猫にでも何でもなってやるよ」  いや、その心意気は立派だが……。  元猫のマドリーンに失礼な気がする。 「呼び方は“ソルト”でいいか?」  ソルティードは少し考え込んだ。 「いや、俺はセオドアに“ソルト”と呼ばれていたから……」 「じゃあ“ソル”」 「あぁ。それでいい」  ソル……ラテン語で太陽だったっけな?  幽霊なんだけど、それも怨霊なんだけど。  セオドアやラスティル王国を照らす存在となって欲しい。  こうして事故物件は、新たな俺の生活の拠点となってゆく。

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