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演説
「『“ラスティルの大結界”展開計画』は戦争や魔王軍の襲撃など、いずれ来たる脅威に備えてのものです。決して国民を分断する目的などありません!!」
反対派が集まる中、私はこう断言した。
「ヴァニタス・アッシュフィールド様は魔法師団所属の魔法師ではありません。ヴァニタス・アッシュフィールド様はアッシュフィールド家長男にして畏れ多くもセオドア先王陛下の従甥、国王の後継者候補のお一人です。『“ラスティルの大結界”展開計画』はそのヴァニタス・アッシュフィールド様の大量の血を必要とするものです。国民の分断などでそのような高貴で尊きお方に血を流してもらうなど、ありえません」
反対派がザワついた。
そう、あくまでも『“ラスティルの大結界”展開計画』は王国側がヴァニタスにお願いしているものなのだ。
ヴァニタスは魔力の面でも出血の面でも多大な負担を強いられる。
正直、恋人としては止めたい。
でも、状況がそれを許さない。
「だが、ヴァニタス・アッシュフィールドに危害を加えようとする者は結界に弾かれると聞いた!!」
反対派の声に、そうだそうだと同意の声が上がる。
「危害を加えようとする者は弾かれますよ。ヴァニタスに対してだけじゃない。国民に危害を加えようとする者は弾かれます。けれど、この国には司法があります。相手に危害を加える前にます、話し合いで解決すべきではありませんか?」
反対派が押し黙った。
もう一息か?
「繰り返しますが、『“ラスティルの大結界”展開計画』は魔法師団主導のもので、魔法師団はヴァニタス・アッシュフィールド様にはお願いをしている立場です。ヴァニタス・アッシュフィールド様の負担は血だけではありません。結界を展開したらヴァニタス・アッシュフィールド様はラスティル王国から一歩も出られなくなります」
反対派がザワついた。
でも、これは正直私にもダメージがある。
私やラスティル王国は、どれだけの負担をヴァニタスに背負わせるのか。
「私たち魔法師団も、必要がなければこんなにも一人の人間に負担を強いる魔法を展開したいとは思いません。しかし、世界情勢がそれを許さないのです。アリスティア王国を思い出してください。今、ラスティル王国がアリスティア王国の二の舞になりかねない状況なのです。できるだけ早く対策をしなければならない。もし、『“ラスティルの大結界”展開計画』に対して言いたいことがあれば魔法師団にどうぞ。師団長である私、スピルス・リッジウェイか副師団長のディアドラ・ウェインライトがお相手します」
「上手くいきましたね、団長」
「これくらいしないと。ただでさえヴァニタスには多大な負担を強いるのです。それ以外の負担は、極力私たち魔法師団が肩代わりしないと……」
ディアドラがクスクスと笑った。
「大切なんですね、ヴァニタス様が」
「それはまぁ……公私混同甚だしいですが……恋人ですから」
私の言葉に、ディアドラが微笑みを浮かべたまま、ほうっと溜め息を吐いた。
「羨ましいです。私にもそんな風に言えてしまう恋人が欲しいです」
「言われたい……じゃなくて言いたい、ですか」
今度は私がクスクスと笑った。
「当たり前です。私にお伽噺のように待ってるだけの姫君が似合うと思っているんですか?」
見た目だけなら似合うんだが……ディアドラは強い。
魔法師団所属の男性魔法師が束になってもディアドラには叶わない。
「いつかディアドラの前にも現れますよ。大切だと思える人が、きっと」
私の言葉に、ディアドラがふわりと笑った。
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