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03善悪
俺の血で魔法陣を描く。
まずは結界用のもの。
魔力を流し込んで起動させると、『プロミスド・サンクチュアリ』を歌う。
歌が結界に馴染んだら、転移用の魔法陣を描く。
結界に魔力を流し込んで、起動する。
一応、限られた者しか使えないよう、封印を施しておく。
「お疲れ様でした、ヴァニタス」
馬車の中でスピルスが手当てをしてくれる。
やっと1か所。
ラスティル王国内全てを結界で覆うのだ。
もちろん、これだけでは終わらない。
これから各地を回って、結界を張り巡らさなければならない。
近くで馬車が止まった。
スピルスと二人、首を傾げる。
何者かが御者に話しかけている。
「俺が行ってくる。ピルスくんとバニーちゃんはちょっと待ってて」
ジェラルドが剣を携え出て行った。
この、妙な呼び方をつけるクセがなければカッコいいのに。
ジェラルドが外にいる間にスピルスは手当てを終える。
スライム姿の柚希と黒猫姿のソルティードが外を窺っている。
ジェラルドはしばらく御者と3人で何かを話していた。
やがて、話しを切り上げてこちらに向かってくる。
「バニーちゃん。ピルスくん。ちょっといい?」
ジェラルドが戻ってきた。
そこには……。
「ノア・マードック!?」
あの日アレクシスの傍らにいた金髪の男だった。
「こちらもアッシュフィールド公爵家の離れ屋敷に向かう。そちらもすぐに向かってくれ」
ノア・マードックが外から声を掛けてきた。
ジェラルドが頷く。
…………アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷?
「今日、アレクシス宰相がノア・マードックと共にアッシュフィールド公爵家の離れ屋敷を訪れたらしい」
屋敷は静まり返っていたそうだ。
現れたのはマチルダとマドリーン。
明らかに何か戸惑っている。
「新たに雇った侍女が、料理に何かしらの薬を混ぜた。それをビオンくんとスライくんが口にした。今二人は寝込んでいるみたい」
「侍女は?」
「逃げた」
「結界は?」
「機能しているかどうかも含めて、バニーちゃんに確かめて欲しいって」
「アルビオンとシルヴェスターの具合は?」
わからない……と、ジェラルドは首を横に振った。
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