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04善悪
「アレクシス」
「ノア、ありがとう。ヴァニタス、スピルス、すまない」
俺とスピルスは首を横に振った。
「結界はしっかり機能しているね」
「何故結界内の者に危害を加える目的のヤツが侵入できたのか……」
頭を抱える俺を、ジェラルドが引っ張った。
「早くビオンくんとスライくんのとこに行こう」
そうだ。
まずは薬を口にしたという二人だ。
部屋からアルビオンとシルヴェスターが現れた。
顔色が優れないが命に別状はないようだ。
「前世を思い出したよー。あれは強制的に前世を思い出させる薬だったみたいー」
アルビオンのいつもの口調。
しかし、元気がない。
「薬を混入させたのはライラという名の赤髪の侍女でした」
「ライラ!? 赤髪!?」
「ご存知なのですか?」
マチルダの言葉に、俺は更に頭を抱えることになる。
「俺のせいだ……」
俺は、王宮でのライラとの邂逅について話した。
ライラは始めから王宮で働く気などなかったのかもしれない。
ライラが王宮に来たのは俺と接触する為。
俺と接触して俺から自分への敵愾心を奪い、アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷に侵入する為。
「ライラ、赤髪と言ったね」
いつの間にか、柚希がスライムから人間になっていた。
「魔王軍の副官に、ライラと言う名の赤髪の少女がいる」
「ま、魔王軍!?」
皆が絶句している。
という事は、薬は魔王が用意した?
「響哉君は優君を探しているからね。強制的に前世を思い出させる薬を開発していてもおかしくはない」
確かに……そうかもしれない。
「アルビオン、シルヴェスター、前世について話せるか?」
問いかけると、アルビオンは押し黙った。
代わりにシルヴェスターが頷いた。
「前世の俺の名前は乙村直澄」
「乙村直澄」
その名前には聞き覚えがあった。
その名前は……。
「全寮制の男子校、天塚学園高等部の生徒だった。軽音部。ある日、事件が起こった。最初は集まって怪談話して全員がパニックになって、それから次々殺人事件が起こって……」
「犯人の名は、天塚隆斗……」
俺は、思わずそう呟いてしまった。
だって…………。
「何故だ!? 何故知っている!?」
怒鳴ったのはアルビオンだった。
アルビオンは俺に突っかかってくる。
「天塚隆斗!! 俺の名を!! 何故知っている!?」
「何故って……」
それは…………。
「俺が生前に書いて小説投稿サイトに投稿したミステリー小説の登場人物だから……」
アルビオンが俺を殴った。
俺は床に倒れ込む。
アルビオンは俺の上に馬乗りになると俺の首を締めた。
「アンタが俺たちを作らなければ!! 綾乃は!! 直澄は!! 俺は!! 俺はっ!!」
頭の中が真っ白になる。
苦しい。
苦しい。
苦しい。
「ビオンくん。それ書いたのバニーちゃんじゃなくて、赤津孝憲ね」
ジェラルドが俺からアルビオンを引き剥がした。
アルビオンはジェラルドを睨む。
「同じだろうが!?」
「違うよ。君だってビオンくん……アルビオンだ。天塚隆斗じゃない」
「ふっざけんな!! 直澄!! 行くぞ!!」
アルビオンは叫ぶと、シルヴェスターを連れて屋敷を出て行った。
スピルスに助け起こされた俺は、そんな二人をぼんやりと見ていることしかできなかった。
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