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姉弟
「ここが姉さんの部屋……」
「うん」
「良い部屋だね」
「大切にしてもらってるから。ナイジェルは少し戸惑っているみたいだけど」
アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷。
姉さんの部屋は調度品もしっかりしていて、決して雑に扱われているわけではないというのがよく伝わってきた。
最近では、ナイジェル・アッシュフィールド公爵も時折この屋敷に足を運ぶらしい。
幽閉されているわけではないとわかって、安心した。
「姉さん、手紙ありがとう」
「アレクシスの方こそ、来てくれてありがとう」
「余計混乱させちゃった気がするんだけど」
先程の惨状を思い出しながら告げる。
姉さんは首を横に振った。
「あの子たちは、いつかは向き合わなければならなかったと思う。それがたまたま、今日だっただけ」
姉さんの息子シルヴェスターと、この屋敷の使用人アルビオンが、前世を思い出した。
しかもその前世が、ヴァニタス・アッシュフィールドの前世である赤津孝憲が書いた物語だと言うのだから驚きだ。
そしてアルビオンは激怒した。
自分たちを生み出し、そして苦しめた赤津孝憲に。
その今の姿である、ヴァニタス・アッシュフィールドに。
アルビオンの気持ちはわかる。
僕も、僕の前世である黒須晶仁と香代さんの人生が誰かによって作られたものだったと知れば激怒しただろう。
「大変な人生だったのね、アレクシス」
姉さんが僕を抱き締めた。
「姉さん、僕の前世は犯罪者だ。テロリストだ。姉さんにこんな風に優しく抱き締めてもらう資格などない」
「そんなことないわ」
姉さんの僕を抱きしめる腕の力が強くなる。
「アレクシス、貴方はそんなにも重い過去を抱えながら、重い前世を抱えながら、それでも此処まで生き抜いてきたんだもの。私を思ってくれる優しい貴方のままで。ありがとう。姉として本当に嬉しいわ。貴方は自慢の弟よ」
本当に、姉さんは……。
僕は姉さんを抱き締め返した。
「姉さん。貴方の方こそ優しくて素敵な女性だ。貴方のような素晴らしい女性は香代さん以来だ。僕を育ててくれてありがとう。僕を想っていてくれてありがとう」
クスクスと姉さんが笑う。
「また貴方の婚期が遅れてしまうかしら」
「そうですね。香代さんや姉さん程の女性はなかなかいませんから」
「あら? ノアさんは?」
「ノアは……」
ノアも素晴らしい僕の友人だ。
だけど……男性だ。
彼と結婚は出来ない。
姉さんはクスクスと笑い続ける。
「ゆっくり考えれば良いと思うわ」
「…………そう、だね」
「貴方がどのような選択をしても、子孫を残さない選択をしても、それでも私は貴方の選択を尊重するから」
姉さんは、本当に。
僕には勿体ないくらい、素晴らしい姉上だ。
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