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王女のキドナッピング

 私の名前はウィリディシア・フロース。  ロータリア王国フロース王家の王女。  前世の名前は川辺千紗。  学校の屋上から飛び降りて死んだ。  前世では虐待されて育った。  母親も父親も、女の私よりも弟を愛した。  おじいちゃんとおばあちゃん、猫の小雪は大好きだった。  でも、学校で虐められてることは話せなかった。  親に愛されなかった私だから、おじいちゃんとおばあちゃんに話して嫌われるのが怖かった。  だって、私は女だから。  どうせ生まれ変わるなら、私は男に生まれ変わりたかった。  でも、私は女に生まれてしまった。  ロータリア王国の王女。  誰も彼も、私を道具としてしか見ない。  それは魔王も同じだった。  魔王もまた、私を道具程度にしか認識していなかった。  私も人間を憎んでいた。  でも、魔王自身が悲しい程に人間だった。  人間の、男だった。  私は魔王を適当にあしらった。  魔王も、私にコンタクトを取ることが少なくなっていった。  そんな中、決まった縁談。  相手はラスティル王国の若き国王ユスティート。  また道具扱いかと絶望した。  しかし、ユスティート王は律儀に手紙をくれた。  私が返事を返すと、必ず返事をくれた。  転生者の存在も知っていた。  友人が転生者だと言っていた。  私は、前世の話も手紙に書くようになった。  そのひとつひとつに、ユスティート王は丁寧に返事を書いてくれた。  この人なら信じてもいいかもしれない。  そう思ってしまった。  私は男は嫌いだ。  弟が男だというだけで愛されていたから。  男は大嫌いだ。  ずっとそう思って生きてきたのに……。  輿入れが決まり、ラスティル王国に向かう途中。  もうすぐラスティル王国……そんな場所で。  私は攫われた。  私を攫ったのは、ゲーム『アルビオンズ・プレッジ』の主人公、アルビオンだった。  真っ白な髪に赤い瞳。  間違いなかった。  アリスティア王国のアリスの民の生き残り。  未来の英雄アルビオン。  そんな彼が、私を攫うような真似をした。  ショックだった。 「やっぱりというか、君も転生者だったんだねー」  少し間延びした言い方で告げるアルビオン。 「何でわかるのよ」 「俺の瞳には転生者の前世の姿が映るからー。記憶を取り戻してる転生者限定だけどねー」  何かムカつく喋り方をする男。  攫われた山小屋のような場所にはもう一人男がいる。  もう一人の男……シルヴェスターという男は、何かを思い悩んでいるようだった。  残念ながら、私に魔力はない。  悪役令嬢転生モノだと、王族や貴族はだいたい魔力持ちなんだけど、そんなに都合良くはいかなかった。  でも、魔力があろうがなかろうが関係ない。  何とかここから逃げ出さないと……。  私は人間が嫌いだ。  特に男は大嫌いだ。  でも、話をするならシルヴェスターという男だろう。  アルビオンは何だか、怒りに我を忘れている……そんな気がする。  

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