103 / 112
01取引
ロータリア王国のウィリディシア王女が誘拐された。
犯人はアルビオンだ。
要求はひとつ。
俺の首だ。
今、国は割れている。
元々、『“ラスティルの大結界”展開計画』に反対する者たちがいた。
その者たちが俺を殺してウィリディシア王女救出を優先すべきだと声を上げ始めた。
アレクシスとマドリーンの情報交換で明らかになったが、ウィリディシア王女の前世はマドリーンの飼い主、川辺千紗だ。
千紗の生まれ変わりであるウィリディシア王女が攫われたことで、マドリーンは沈んでいる。
アレクシスはユスティートと共に過激派を抑える為に苦心してくれている。
一方で、マドリーンの為にウィリディシア王女救出に尽力している。
アレクシス……何だかんだで、アイツは良いヤツだと思う。
フィニスとジェラルドはアルビオンの隠れ家を探している。
ディアドラや魔法師団は魔法を使った捜索を続けている。
その分、俺の警備は手薄だ。
居住区には結界を張っているが、魔法師団にも俺やスピルス、『“ラスティルの大結界”展開計画』に反対する過激派がいる。
そいつらが結界を破壊して無理矢理押し入ってくる可能性もゼロじゃない。
また、城の中には結界を自分のものにしてしまえる魔法師がいる。
セオドアだ。
セオドアがこの状況に対し、どう考えているのかわからない。
セオドアに話をする前に過激派に襲われ、居住区に立て籠もってしまったから。
「お兄さんは地下の湖に転移、湖への扉を閉鎖して立て籠もることを勧めるよ」
いや、食料はどうするんだ。
「夜の間にこっそり離れ屋敷の庭に出れば、ヴァニタスなら食物の錬成が出来るでしょ?」
「とりあえず、この居住区にある食料を皆転移させます」
居住区までついてきてくれたスピルスが食料を両手に抱えてきた。
「スピルス、お前もついてくるのか?」
「当然でしょ、恋人なんですから」
一人だったら、多分状況に挫けていた。
一人じゃないから、まだ立っていられる。
居住区の扉が開かれた。
ローブを着た魔法師がいる。
「結界、壊せるか?」
「壊してやらぁな」
魔法師が結界に魔力をぶつけ始めた。
「ヴァニタス君!! スピルス君!! 逃げて!!」
柚希が叫ぶ。
「お前もだよ、柚希。お前も一緒に逃げて、最後までヴァニタスを守れ」
「ソル!?」
ソルティードだった。
黒猫のぬいぐるみから人の姿になったソルティードは剣を構える。
「俺のことは心配しなくていい。元々幽霊だ。とっくの昔に死んじまった人間だ。地下の湖に避難したら、転移魔法陣は封じるか消せ」
「そんな!? お前は!?」
ソルティードは笑った。
「楽しかったぜ。幽霊で罪人の俺にそんな表情してくれるヤツに出会えて」
「そんな……」
「いいか!? お前は間違っちゃいねぇ!! 確かにアルビオンの奴の人生は酷い人生かもしれねぇ!! でも、お前がいなければ、奴は生まれてさえいねぇんだ!! 俺もクソみてぇな人生だったが、お前に出会えた後は、こんな人生も悪くねぇって思えたぜ」
「ソル!! ソルティード!?」
柚希とスピルスに引き摺られ、転移魔法陣から地下の湖へと転移する。
ソルティード……短い間だったけど、俺も、お前と出会えて良かったと思ってる。
ともだちにシェアしよう!